令和6年度_2024_助成研究報告集
140/332

scRNA-seq の報告はない.本研究では,川崎病モデルマウスの心臓組織から抽出した細胞を用いて scRNA-seq を行うことで,冠動脈微小環境における免疫細胞と血管内皮細胞や線維芽細胞などとの細胞間クロストークを網羅的に解析し,冠動脈瘤発症機構の解明や新規治療薬ターゲットの同定を目的とする.また川崎病には診断バイオマーカーが皆無であり,主要徴候が 5 項目以上そろうことで確定診断を行うが,主要徴候がそろわない不全型川崎病が 18.2% 存在し,診断や初期治療が遅れることで,冠動脈瘤を生じうる.川崎病の血漿検体を用いて分析深度や定量性に優れた次世代プロテオミクスであるdata-independent acquisition(DIA)プロテオーム解析を実施することで,川崎病の新規診断バイオマーカーを見出す.実験方法川崎病モデルマウスは,4 週齢雄の DBA/2 マウスに CAWS 1mg を 5 日間連続で腹腔内投与することで作製した.IVIG 投与の有無による冠動脈微小環境の経時的変化を評価する目的で,図 1 の通り scRNA-seq を計画した.CAWS 投与によるモデル作製の前日に生理食塩水を前投与する CAWS 群,IVIG を前投与する IVIG+CAWS 群,炎症を惹起しないナイーブ群を設定した ( 各 n=12).CAWS初回投与から 1,7,28 日後にマウスから心臓を摘出して,酵素処理によりシングルセル化した.mRNA 発現量の少ない CD45 陽性の免疫細胞も十分に評価できるように,セルソーティングによりCD45 陽性 / 陰性細胞に分けた後に,両者を用いて scRNA-seq を実施した.Cell Ranger による一次解析を実施した後に,UMAP で次元削減を行うことでデータを視覚化し,クラスタリングとアノテーションを実施して二次解析を行った.高次解析として,エンリッチメント解析を用いて好中球における高発現遺伝子の機能パスウェイを解析した.図 1. 川崎病モデルマウスの冠動脈微小環境における scRNA-seq の実験デザインさらに,上記で得られた scRNA-seq のデータと,ヒト由来細胞に低分子化合物を添加した 72 万種類の応答遺伝子発現データ (LINCS: The Library of Integrated Network-Based Cellular Signatures)を活用して,川崎病に最適化した AI 薬効予測モデル (GDTrans-KD) を独自に構築し,冠動脈炎にお― 138 ―

元のページ  ../index.html#140

このブックを見る