図 1. 新発見の PLC 酵素群を促す脂質セカンドメッセンジャーである.ホスホリパーゼ C(PLC)は生体膜主成分のグリセロリン脂質(図 1)を加水分解し,DG を産生する酵素である.既知の哺乳類 PLC はホスファチジルイノシトール(PI)(4,5)二リン酸(PIP2)のみを基質とする(PIP2-PLC と表記).当該酵素は PI 代謝回転の一部として主に多価不飽和脂肪酸(PUFA)含有 DG を選択的に産生する.一方で,哺乳類中のDG の大部分は飽和脂肪酸(SFA)含有 DG(SFA-DG)である.SFA-DG を選択的に産生する PLC は半世紀以上前に活性が報告されている.しかし,今日に至るまでその責任酵素(遺伝子)は同定されていなかった.哺乳類中の DG の大部分は SFA-DG である.近年,SFA-DG の蓄積(未知の PLC の活性上昇)が種々の病態や生理機能(動脈硬化症,がん,免疫,II 型糖尿病等)と連関することが示唆されている.しかし,分子実体が不明のため,遺伝子を基盤とした研究が展開できず,SFA-DG 代謝の分子機構に不明点が多い.我々は,SFA-DG をリン酸化する DG kinase(DGK)δ isozyme(DGK δ)の相互作用タンパク質中から,生体膜主要成分のホスファチジルコリン(PC)およびホスファチジルエタノールアミン(PE)等を加水分解し SFA-DG を選択的に産生するタンパク質(遺伝子名:SAMD8,SMS-related protein, SMSr)を発見した 1, 2).すなわち,PC 特異的 PLC(PC-PLC)および PE 特異的PLC(PE-PLC)活性を持ち,SFA-DG を選択的に産生する哺乳類 PLC を発見した.哺乳類 PC-PLC は活性発見後 70 年以上,PE-PLC は 35 年以上分子実体(遺伝子)が不明の「幻の酵素」であった.また,従来の哺乳類 PLC(ホスファチジルイノシトール (PI) (4,5) 二リン酸 (PIP2) 特異的 PLC: PIP2-PLC)は主にアラキドン酸 (20:4) などの多価不飽和脂肪酸含有 DG を選択的に産生することから(図 1 左),本酵素群は従来の PLC(PIP2-PLC)と異なる「SFA-DG シグナル伝達経路(脂質新大陸)」を形成する可能性がある(図 1 右).そこで本研究では新奇 PLC の生理的意義の解明を目的とし,特に本年度は,SMSr の他に PC-PLCまたは PE-PLC 活性を有する酵素を探索・同定し(図 1,課題①),これに成功した場合,新発見のPLC の酵素学的性質を解析すること(図 1,課題②)に焦点をおいた.実験方法SMSr と最も配列類似性の高い,SMS isoform 1 および SMS isoform 2 をクローニングし,Twin-― 126 ―
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