令和6年度_2024_助成研究報告集
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ある卵原細胞は胎生期に有糸分裂を止め,減数分裂へと移行するため(卵母細胞へと分化する),女性が生涯作ることができる卵子の総数が出生前に決まる 2).この卵母細胞プール(卵巣予備能)の構築機構を理解することは妊孕性の形成・維持・喪失機序を理解する上で基盤となるが,胎生期に起こるプロセスの分子機序の多くが不明瞭である.研究代表者は,多能性幹細胞を起点とした in vitro 生殖細胞誘導系を用いて,卵形成プログラムの誘導に必要十分因子である転写因子 ZGLP1 の同定に成功し 1),卵形成プロセスの分子機序解明を行うための独自の実験基盤を創出した.本研究では,この実験基盤から得られた知見を活用し,妊孕性の根幹を担う卵母細胞の「数」の成立機構を理解し,その応用から妊孕性延長を可能にする創薬基盤を創出することを目指した.実験方法本研究は「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物多様性の確保に関する法律」,「動物の愛護及び管理に関する法律」を遵守するため,奈良県立医科大学にて設置されている遺伝子組換え安全委員会,動物実験委員会の承認を受けた上で実施した.(1) 胎児期卵形成における遺伝子発現のプロファイリング胎児期卵母細胞形成の分子機序を理解するために胎齢 9.5 日〜出生後 2 日齢までの胎仔雌マウスから始原生殖細胞および卵母細胞を採取し,次世代シーケンスを行った.生殖細胞の回収は Stella-EGFP(胎齢 9.5 〜 13.5 日),または,Ddx4-RFP(胎齢 14.5 〜生後 2 日)を指標として FACS Aria II を用いて行った.細胞回収後,3’ 側をエンリッチして mRNA を増幅してシーケンス用ライブラリを作製し,次世代 RNA-seq に供試した 3).また,ZGLP1 の強制発現により in vitro にて卵形成を誘導した生殖細胞からも同様に遺伝子発現解析を行った.(2) 標的遺伝子の遺伝子改変 ES 細胞作製標的遺伝子の機能検証を行うために,遺伝子破壊が効率よく起きるようにデザインされた Mouse CRISPR KO pooled library(Brie) を用いて,Blimp1-mVenus; Stella-ECFP の二つの蛍光タンパク質レポーターを保持する ES 細胞にてゲノム編集を行った.(3) ES 細胞からの始原生殖細胞誘導,および,再構成卵巣作製(2)にて作製したゲノム編集 ES 細胞をまずエピブラスト様細胞へと分化させ,その後,BMP 刺激により始原生殖細胞へと分化させる.Blimp1-mVenus を蛍光指標に細胞を分取し,胎仔マウス卵巣由来の体細胞と共培養して再構成卵巣を作製した.胎仔卵巣体細胞は妊娠 12 日齢 ICR マウスから雌胎仔を取り出し,MACS(表面抗原:CD15+ と CD31+)により内在性の生殖細胞を取り除き採集した.再構成卵巣をコラーゲンコートした PTFE メンブレンに静置し,気相 - 液相界面培養法にて卵巣培養を行った 4).卵巣培養を 21 日間行い,Stella-ECFP の蛍光を指標に卵母細胞の数を観測した.また,再構成培養の 5,7,9 日目にて Stella-ECFP を指標に細胞を分取し,次世代シーケンスに供試した.(4) 標的タンパク質の細胞内局在解析 標的因子の Coding sequence を胎仔期卵母細胞由来の cDNA library より PCR クローニングし,CMV プロモーター下での過剰発現ベクターを構築した.発現ベクターを HEK 細胞にて強制発現し,標的タンパク質の発現局在パターンを確認した.(5) 標的タンパク質に対する抗体作製 コスモバイオ社の抗原解析サービスを利用し,抗体作製に最適な部位を予測し,その部位に対する― 118 ―

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