検討した.実験方法SPF および無菌マウスは慶應義塾大学医学部で,CL-2 もしくは AIN93G をベースとした精製飼料および高脂肪食を給餌して維持した.鼠径部皮下脂肪組織中における遺伝子発現は RTqPCR 方により測定した.ベージュ細胞形態や肝臓における脂肪蓄積は HE 染色により検討した.マウスの小腸内容物や便から嫌気培養にて腸内細菌株を単離し,16SrRNA のサンガーシーケンスと全ゲノムシーケンスにより細菌を同定した.相同組換えにより nrfA 遺伝子をクロラムフェニコール耐性遺伝子とUracil phosphoribosyltransferase に置換することで nrfA 遺伝子欠損株を作製した.結果及び考察通常の腸内常在菌を保有する SPF(specific pathogen free) マウスに炭水化物,脂質,タンパク質量が様々に異なる組成の食餌を与えたところ,タンパク質を 7% 以下に低下させる ( 低タンパク食 ) と鼠径部皮下脂肪組織において強力なベージュ細胞集積が誘導されることが分かった.低タンパク食はマウスやヒトにおいて肥満や脂肪肝の症状を抑制したことから,これらの疾患の治療に有効である可能性が示唆された.次に腸内細菌の関与を調べるために無菌マウスに低タンパク食を与えた結果,ベージュ細胞の誘導が SPF マウスに比べて顕著に低下していた.このことから低タンパク食によるベージュ細胞の誘導には腸内常在菌の介在が必須であることが分かった.そこで無菌マウスへ SPF マウス腸管内容物やベージュ・褐色脂肪細胞を有する健常者の便を移植し低タンパク食を給餌した結果,皮下脂肪組織において強力なベージュ細胞の誘導が認められた.責任細菌を同定するために,最も強力にベージュ細胞誘導が認められたマウスの腸管内容物や便からマウス由来 20 菌株,ヒト由来 33 菌株を単離した.無菌マウスにそれらの in vitro 培養ミクスチャーを経口投与しそれぞれマウス由来 20菌株およびヒト由来 33 菌株のみが定着したノトバイオートマウスを作製し,低タンパク食を与えた結果皮下脂肪組織におけるベージュ細胞集積が十分に誘導できた.このことから,これらマウス由来20 菌株およびヒト由来 33 菌株が低タンパク食による刺激に反応してベージュ細胞の誘導に寄与する責任細菌であることが分かった.さらに絞り込みを行った結果,ヒト由来株については 4 菌株の組合せで十分にベージュ細胞を誘導できる事が分かった.ヒト由来 4 菌株のうち少なくとも 2 株は低タンパク食による刺激に応じて窒素代謝関連遺伝子 nrfA (nitrite reductase, formate-dependent A) の発現を増加させていた.その欠損株を作製し無菌マウスに投与して低タンパク食を与えたところ,ベージュ細胞の誘導が著明に減弱していた.以上より低タンパク食の刺激により腸内細菌の窒素代謝応答がおこり,それがリレーして皮下脂肪組織においてベージュ細胞の誘導に寄与することが明らかとなった.これらの同定細菌は肥満や代謝機能障害関連脂肪肝炎の治療に有効である可能性が考えられる.おわりに本研究では腸内細菌と食餌の介入がベージュ脂肪細胞の誘導に寄与するかを検証した.その結果,低タンパク食と特定の腸内細菌種組合せによりマウス皮下脂肪組織においてベージュ細胞の蓄積が認められることと特定し,それらは腸内細菌による nrfA 遺伝子の発現増加によるイベントが重要であることが分かった.低タンパク食はマウスおよびヒトにおいて脂肪肝の症状を改善したことから,本― 112 ―
元のページ ../index.html#114