い電子密度が確認されたことから,接着因子が介入する密な接着であることが示唆された.また,オルガネラクラスターはペルオキシソームの分解とともに分散していくことから,ペルオキシソームがオルガネラクラスターの核となっていることも示唆された.<オルガネラ動態と細胞運命>ペルオキシソームの分解 = オルガネラクラスターの分散が観察された桑実胚〜胚盤胞期は細胞運命が徐々に決まる時期でもある.受精卵の内側に位置する内部細胞塊は胎児に,外側の栄養外胚葉は胎盤となる.ペルオキシソーム動態と細胞運命決定の関係について明らかにするために,細胞運命マーカーである転写因子とペルオキシソームを共染色した.ペルオキシソームの分解はこれらのマーカータンパク質の発現が区別できる時期から始まり,内部細胞塊と栄養外胚葉ではその速度が異なることが観察された.これらの結果からも,ペルオキシソームの分解およびオルガネラクラスターの解体と細胞運命が密接に関わっていることが示唆された.おわりに本研究課題では,マウス初期胚の発生過程においてペルオキソームを中心としたオルガネラの劇的な動態変化が観察された.特に,ペルオキシソームを中心としたオルガネラクラスターはこれまでに報告例のない独特な構造で,ミトコンドリアやリソソーム,脂肪滴といった脂質代謝に関わるオルガネラが含まれていた.これらのオルガネラの二者間の接着に関する報告例はあることから,オルガネラクラスターは個々のオルガネラが機能的に連なった巨大な代謝装置として機能している可能性も考えられる.オルガネラクラスターは桑実胚〜胚盤胞期の間にペルオキシソームの分解とともに解体される.重要なことに,この時期は細胞運命が徐々に決まり始める時期でもある.近年,細胞内代謝状態あるいは代謝物が細胞分化や運命の決定に寄与していることが徐々に明らかになってきている.オルガネラクラスターにおける代謝や代謝物と細胞運命決定のシグナルが相互に制御されている可能性も十分考えられる.今後は,オルガネラクラスターの制御因子やその代謝物を同定し,阻害実験などを行うことにより生理的意義の解明を目指す.また,それらの成果を応用し,胚培養液組成の最適化やオルガネラ形態や分布を指標とした胚の品質管理など,生殖医療の実用化へと発展させていきたい.謝辞本研究は公益財団法人 中外創薬科学財団・研究助成金Ⅱの助成によって行われました.中外創薬科学財団様には感謝申し上げます.また,実験技術や解析にあたって多大なご支援ご協力をいただいた岡﨑康司教授,内山安男教授,谷田以誠先任教授,山口隼司助教(順天堂大学),藤森俊彦教授,安江奈緒子様(基礎生物学研究所),佐藤健教授,佐藤裕公准教授(群馬大学)にもこの場をお借りし感謝申し上げます.引用文献1. K. J. Kaneko, Metabolism of Preimplantation Embryo Development: A Bystander or an Active Participant? Curr Top Dev Biol, 120, 259-310 (2016).2. V. Chiappetta et al., Discard or not discard, that is the question: an international survey across 117 embryologists on the clinical management of borderline quality blastocysts. Hum Reprod, 38, 1901-1909 (2023).― 109 ―
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