令和6年度_2024_助成研究報告集
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けるペルオキシソーム動態を解析するために,受精直後(E0.5)から胚盤胞(E4.5)までのペルオキシソームを免疫蛍光染色により観察した.E0.5 では多くの培養細胞で観察されるように,細胞質全体にペルオキシソームが分布していた.2 細胞期から徐々にクラスターを形成し始め,桑実胚期までクラスターは大きくなっていった.胚盤胞前期ではペルオキシソーム数は減少し,後期になると増加していることが観察された.このように,受精後 4.5 日までの発生過程の進行とともにクラスター化,分解,増殖と劇的なペルオキシソームの動態変化が観察された.各過程の詳細を理解するため,まずは分解についての解析を進めた.ペルオキシソームの分解は主にペキソファジーと呼ばれるペルオキシソーム特異的なオートファジー経路によって行われる 4).マウス初期胚で観察されたペルオキシソームの減少がペキソファジーによるものであるかを検証するために,これまでに報告されたすべてのペキソファジー経路で共通している LC3 とペルオキシソームの関係を免疫蛍光染色法により調べた.複数の研究グループからも報告されているように,受精直後に LC3 のドット状のシグナルが観察され,オートファジーが活性化されていることが確認された 5).発生が進むにつれて,LC3 のドット構造は大きくなり,それらの一部がペルオキシソームと共局在を示した.さらに,共焦点顕微鏡による 3 次元的な解析により,LC3 がペルオキシソームを取り囲んでいることが観察された.ペキソファジー経路においてペルオキシソームは最終的にリソソームで分解される.リソソームにおける分解阻害剤である Bafilomycin A1 添加培地中で受精卵を培養したところ,ペルオキシソームの分解が阻害され,クラスターのまま蓄積していることが観察された.さらに,ペルオキシソーム分解と受精卵発生過程の時空間的な関係性を検証するために,EGFP-mCherry2-SKLを用いた実験を行なった.EGFP-mCherry2-SKL はそれぞれの蛍光タンパク質の pH 感受性を利用して,ペキソファジーフラックスを解析するプローブである.2 細胞期から胚盤胞期後期までの観察結果より,ペルオキシソーム分解は受精卵に空洞ができる時期,すなわち桑実胚から胚盤胞期への移行期にリソソームを介して行われていることが確認された.さらに,EGFP の蛍光を消失した構造はクラスターではなく,小胞様に観察されたことからペルオキシソームの分解はクラスターごとではなく,一つ一つが分解されていることも明かとなった.基質特異的なオートファジーでは基質と隔離膜を繋ぐ受容体などが存在し,ペキソファジーにおいても複数の因子が報告されている 6).既知の因子について,免疫蛍光染色によりペルオキシソームと共染色を行ったが,ペキソファジーとの関連は明らかにならず,発生過程特異的なペキソファジー調節因子の存在が示唆された.これらの因子を同定するためには,各発生時期のオルガネラ画分を用いたプロテオーム解析など,網羅的な解析等が必要となる.<初期胚発生におけるオルガネラ動態>ペルオキシソームは直接的な膜接着等を介して他のオルガネラと代謝物を交換することにより細胞内代謝の中心的な役割を担っている 7).これまでに,培養細胞を用いた研究を中心に,ペルオキシソームと他のオルガネラとの接着が観察され,分子機構も明らかになってきている.初期胚におけるオルガネラネットワークを調べるために複数のオルガネラに対して免疫蛍光共染色を行なった.その結果,ペルオキシソームクラスターには,ミトコンドリアや,リソソーム,脂肪滴も含まれた複数のオルガネラからなるクラスターであることが観察された.次にオルガネラクラスターの微細構造を解析するために,CLEM を行った.蛍光顕微鏡で観察されたように,ペルオキシソームを中心としたクラスターに複数のオルガネラが含まれていることが観察された.ペルオキシソーム同士の接着点は高― 108 ―

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