令和6年度_2024_助成研究報告集
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はじめに脊椎動物の発生では一つの受精卵から細胞増殖や分化過程を経て,多様な器官が形成され個体となる.受精直後から細胞分裂が盛んに行われ,細胞運命が徐々に決まり始める桑実胚までの間に,タンパク質や mRNA などの母性因子が胚性因子へと入れ替わり,糖やアミノ酸,脂質などの代謝システムも劇的に変化する 1).着床前の胚盤胞までは培養液中で発生を進めることが出来るが,不妊治療の一つである体外受精では受精卵が培養液中で胚盤胞まで進む確率は約 6 割にとどまり,培養液の組成なども含めた培養方法の最適化には至っていない 2).また,移植に適した胚の判断基準も確立されておらず,受精から胚盤胞までの発生機序の解明は当該分野においても喫緊の課題である.In vitro 培養胚などを用いた解析により正常な胚発生には正常な代謝変換が必須であることが示されているが,実際の代謝の場となるオルガネラの動態や相互作用,分化過程における細胞運命決定への作用機序に関しては未解明な部分が多く残されている.申請者の予備的な実験において,マウス受精卵の受精後0~4.5 日の間にオルガネラの形態や数が劇的に変化することが観察された.これらのオルガネラ動態は発生不全卵においては異常が認められることから,単に時間経過とともに起きるのではなく,発生過程と連動していることが示唆された.本研究課題ではオルガネラネットワークの相互作用やその制御機構,細胞運命決定における役割を時空間的に理解することを目的とし,マウス初期胚発生におけるミトコンドリアやペルオキシソームなど複数のオルガネラを解析した.実験方法1. 免疫蛍光染色によるオルガネラおよび関連因子の観察受精後 0.5 のマウス凍結受精卵を融解後,KSOM 培地中で培養し,0.5~4.5 日の受精卵を 4% PFAで固定した.各種の抗原に対する抗体を用いて免疫蛍光染色を行なった.脂肪滴は Nile red によって染色した.2. ライブセルイメージングによるオルガネラ動態の観察蛍光タンパク質融合型のペルオキソーム標的タンパク質,あるいはペルオキシソームの機能調節や分解に関わるタンパク質の mRNA を 1 細胞期のマウス受精卵にマイクロインジェクションし,2 細胞期から胚盤胞期までのペルオキシソームの動態やその関連因子をライブイメージングにより時空間的に解析した.3. CLEM による超微構造の観察受精後 2.5 日のマウス受精卵を 4% PFA/0.25% GA で固定後,ペルオキソーム膜蛋白質であるPMP70 に対する抗体を用いて免疫蛍光染色を行なった.その後,光 - 電子相関顕微鏡法(CLEM: Correlative light and electron microscopy)によりペルオキシソームを中心としたオルガネラクラスターの超微構造を観察した 3).結果及び考察<初期胚発生におけるペルオキシソーム動態>オルガネラは細胞内・外の環境に応じて数や形態をダイナミックに変化させ,種々の細胞機能調節に寄与している.初期胚発生は生体内で細胞内・外の環境が最も大きく変化する過程であるが,ペルオキシソームを主として解析した例はこれまでに報告されていない.まずは,マウス初期胚発生にお― 107 ―

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