令和6年度_2024_助成研究報告集
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た. そのような中で,2019 年,ALS/FTD 患者の凍結脳組織から,TDP-43 陰性の神経細胞核をfluorescence-activated cell sorting (FACS) を利用し,集積する方法が考案され,全細胞核の約 2% しかない,TDP-43 陰性神経核の遺伝子発現状態 ( トランスクリプトーム ) が解析可能となった 4).申請者は,このトランスクリプトームから,TDP-43 が消失した神経細胞核で,ALS/FTD の病態に関わる UNC13A の異常スプライシングが増加していることを見出した 5).本方法を用いる事により,単一の TDP-43 陰性神経核で,DNA のメチル化状態 ( メチローム ) を,トランスクリプトームとともに解析できれば,細胞レベルで,本症の病態を明らかにできると考えた.しかし,これまで,同一細胞で,メチロームとトランスクリプトームを対応させることは大きな課題であった.そのような中,snmCAT-seq (single-nucleus methylcytosine, chromatin accessibility and transcriptome sequencing) 法が開発され,RNA 分子に「タグ」付けすることで,同一細胞核から,DNA と RNA の分子情報を同時に測定できるようになった 6).これらの背景に基づき,私は,孤発性 ALS 発症の早期分子病態を,細胞レベルで解明することを目指した.実験方法ALS 患者由来の前頭葉組織 ( 凍結剖検脳組織 ) を使用して,TDP-43 陰性及び陽性の神経細胞核を集積した.方法としては,まず,ヒト凍結脳組織から,ショ糖密度勾配遠心法により,核を分離し,Alexa Fluor 488 共役型抗 -NeuN 抗体 ( 抗神経核抗体 ),Alexa Fluor 647 共役型抗 -TDP-43 抗体と核染色 DAPI を利用した細胞ソーティング (FACS Aria Ⅱ , BD) により解析を行った.結果及び考察最初に,Alexa Fluor 488 共役型抗 -NeuN 抗体 ( 抗神経核抗体,Millipore) と核染色 DAPI を利用した細胞ソーティング (FACS Aria Ⅱ , BD) により,神経細胞と非神経細胞の核を分離し,核酸抽出できることを確認した (図2).図 2. ヒト脳組織からの神経細胞核と非神経細胞核の分離― 104 ―FACS ソーティングにより,NeuN 陽性細胞集団と NeuN 陰性細胞集団を分けて集積.各細胞集団から,RNA を抽出し,qPCR により神経細胞マーカーである NeuN と MAP2,グリア細胞の一つ,オリゴデンドロサイトのマーカーである MBP の発現を評価.NeuN 陽性細胞では,NeuN と MAP2 の発現を,NeuN 陰性細胞では,MBP の発現を確認.

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