このバランスの破綻は,自閉スペクトラム症(ASD)をはじめとする神経発達・精神疾患の中核的な病態と考えられており,分子・回路・行動の各階層を貫く統合的理解が求められている.E/I バランスの制御機構として知られるホメオスタティックなシナプス可塑性においては,AMPA受容体や接着分子の細胞内輸送,およびシグナル伝達機構に関して,興奮性シナプスに関する知見が蓄積されてきた 1).一方で,抑制性シナプスに関しては未解明な点が多く残されている.抑制性シナプスでは,GABAA 受容体が樹状突起内を微小管依存的にシナプス後膜へと輸送される.近年では,微小管先端結合タンパク質(+TIP)の一種である EB が,軸索および樹状突起終末においてシナプス形成に関与することが示唆されている.申請者らは,膜貫通型接着分子 Teneurin-2(TEN2)が抑制性シナプスの後シナプス側において EB と結合し,その形成を制御する候補分子であると着目してきたが,その制御因子や動的な挙動については依然として不明な点が多い 2).本研究では,TEN2 の細胞内ドメインに内在的無秩序領域(IDR)が多い点に着目した.IDR は液- 液相分離(LLPS)を誘導しやすく,細胞内においてシグナル応答性の「可逆的足場」として機能することが知られている.申請者は,TEN2 が 2 次元的な LLPS を介して側方拡散を制御し,さらにCa²+ 流入によって微小管先端結合タンパク質 EB との複合体形成が促進されるという作動モデルを提唱した.このモデルに基づき,TEN2 が微小管を局所的にリクルートし,微小管依存的な GABAA 受容体の輸送を介して抑制性シナプスの形成・発達に寄与することを細胞レベルで実証した.あわせて,TEN2– 微小管複合体相互作用に対する将来的な介入評価に向けて,前帯状皮質(ACC)を対象とした深度整合型シナプスマッピングと,多変量行動指標を統合した解析パイプラインの構築を行った.実験方法1. 分子・細胞レベルの解析(群馬大学遺伝子組換え実験 24-060 承認)1.1 プラスミド構築と細胞培養(目的:LLPS 能と EB 結合依存性の比較)・マウス TEN2 細胞内ドメイン(IDR)および EB1 を蛍光タンパク質で標識 ・ネガティブチャージ中和変異(E → Q, D → N)を部位特異的変異導入・COS-7 細胞,一次培養海馬ニューロン(E16 マウス胚由来)培養 15-17 日目1.2 2D-LLPS & ビーズ集積アッセイ(目的:2 次元 LLPS 依存的 TEN2 集積能評価)・抗 HA 抗体ビーズに mCherry-TEN2 (細胞外欠損)を結合させ固定点を作製・同時に可拡散性 EGFP-TEN2 を共発現し,蛍光濃縮を共焦点撮影1.3 Ca²+ 依存性誘導実験(目的:Ca2+ シグナルの効果測定)・25 mM KCl を 2 min 投与後ウォッシュ・nifedipine 添加による電位依存性カルシウムチャネルの阻害1.4 固定細胞イメージング(目的:ドロップレット形成,微小管結合解析)・Zeiss LSM880 で固定細胞免疫染色観察1.5 生化学結合解析(EB1 との直接結合と Ca²+ 感受性定量)・Biacore T200 にて EB1 固定チップ上で TEN2-ICD 結合を測定 ― 98 ―
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