中外創薬 助成研究報告書2023
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ドリアDNAが誘導するSASPを含めた細胞外応答,あるいは老化や加齢関連疾患の状態で誘導するSASPを含めた細胞外応答を解析し,それらの疾患への影響を明らかにする.実験方法1. 狙った局所でゼブラフィッシュLMNA変異体を発現誘導するゼブラフィッシュ系統を樹立し,局所の臓器障害と多臓器の臓器連関を解析する.狙った局所でのみTFAMに対するCRISPR-Cas9を作動させ異所性のミトコンドリアDNAを誘発できるゼブラフィッシュ系統を樹立し,局所の臓器障害と多臓器の臓器連関を解析する.2. 細胞外液を高感度プロテオミクスや次世代シークエンスで解析するための手技を確立し,異所性の核DNAやミトコンドリアDNAが誘導する細胞外応答,および老化や加齢関連疾患の状態で誘導される細胞外応答を解析する.結果及び考察狙った局所でゼブラフィッシュLMNA変異体を発現誘導するゼブラフィッシュ系統の樹立を試みた.しかしPromoter活性が弱い,あるいはLMNA変異体のdominant negative効果が弱いため,想定するような強い表現型が得られていない.狙った局所でのみTFAMに対するCRISPR-Cas9を作動させ異所性のミトコンドリアDNAを誘発できるゼブラフィッシュ系統についてはCRISPR-Cas9の毒性が強いのか,injectionした世代はトランスジーンを保持するが,次世代以降トランスジーンを発現する個体が激減し,こちらも実験を推進するためにさらなる工夫が必要であり,現在も改良を進めている.一方で培養細胞を用いてSASPを高感度に定量する系を樹立した.簡単には10cm plateの培養細胞の上清をFBSやフェノールレッドを含まないものに置換し,3時間後に回収,濃縮し高感度プロテオミクスやqPCRへと供した.高感度プロテオミクスではIL-6などの既報のSASP因子の同定も含め3000を超える分泌タンパク質の定量的な同定に成功した.これにより代表的な加齢関連疾患であるパーキンソン病やアルツハイマー病の病態機序に迫りつつ有る.これについてはその結果の一部をプレプリントで報告しており4),その要点を以下に記載する.アルツハイマー病では細胞外のアミロイドβ蓄積が疾患の原因であるというアミロイドβ仮説が有力とされているが,いまだに有効な治療法は少ない.私たちは今一度アミロイド前駆タンパク質(APP)の機能を検討し,アミロイド前駆タンパク質が今までに報告がない重要な機能を担っていることを明らかにした.エトポシド投与やラミンAのノックダウンなどは核の障害をまねき炎症や細胞老化を惹起することが知られている.細胞においてAPPを過剰発現するとこれらの負荷による核の障害による細胞死や炎症が軽減する.逆にAPPを除去したり,あるいは変異があったりすると,これらの負荷による核の障害による細胞死や炎症が悪化する.これらの表現型はiPSから分化させたニューロンでも再現される.家族性アルツハイマー病で見られる変異型のAPPでは核の障害に対する保護効果が顕著に失われる.APPは細胞内において核由来の小さな細胞質内構造物(核老廃物と言ってもいいだろうもの)とよく共局在し,それを細胞外に破棄する役割を担っていることが,生化学的な実験や質量分析および顕微鏡イメージングによる明らかになった.APPがない細胞ではこの核老廃物の廃棄が行うことができないために,細胞内に異常な核老廃物の蓄積を起こした.マウスでも同様で― 86 ―

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