中外創薬 助成研究報告書2023
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の結果から,ADRbの活性化により肝線維化が亢進することが明らかになった.2.2 ADRbアンタゴニスト投与による肝線維化の抑制次にADRbアンタゴニストであるPropranolol (PPL)の投与を行った.12週間のTAA給水によって線維化が誘導されるが,PPL投与を継続していると,線維化の抑制が認められた.この結果から,ADRbの抑制により肝線維化が抑制されることが明らかになった.おわりに本研究では,肝臓の慢性肝障害によって誘導される胆管増生とそれに続く肝線維化への交感神経刺激の影響について解析を行った.交感神経刺激亢進の影響を調べるために,マウス皮下にIsoproterenol (ISO, βADRアゴニスト)を投与する方法を用いた.ISOは胆管上皮細胞に直接作用して,分泌機能促進を介した増殖促進作用を示すことに加えて,門脈周囲線維芽細胞に作用しFGF7など液性因子分泌を誘導することで,胆管上皮細胞の増殖を促進する.この2つのメカニズムによって胆管増生が促進されることが明らかになった.さらに,ISO投与は胆管増生に加えて肝線維化を亢進する作用を示し,Propranolol (PPL, βADRアンタゴニスト)投与は肝線維化を抑制する効果があった.現在進めている遺伝子発現解析の結果は,交感神経刺激はコラーゲン産生などを介して肝線維化に影響を与えることが示唆されている.本研究では,交感神経のターゲットとして,胆管上皮細胞と門脈域線維芽細胞の解析を進めた.組織内では,交感神経がこれらの細胞に作用し,その相互作用を変化させることで,肝障害による病態進行に影響を与えている可能性がある.我々は,肝臓内の上皮細胞組織構造を再現したオルガノイドHepatobiliary tubular organoid (HBTO) 構築に成功している7).また,ヒトiPS細胞から交感神経の誘導に成功した.現在,クッパー細胞および星細胞を導入したHBTOと神経細胞の共培養を進めており,Ex vivoモデルを用いて,慢性肝障害における肝内交感神経と肝組織の相互作用解析を進める予定である.謝 辞本研究は,公益財団法人 中外創薬科学財団研究助成Aのサポートを受けて行った.2年間サポートいただき,感謝申し上げます.引用文献1. Otake M, Sakaguchi T, Yoshida K, Muto T: Hepatic branch vagotomy can suppress liver regeneration in ― 83 ―partially hepatectomized rats. HPB Surg, 6 (4), 277-86 (1993). DOI: 10.1155/1993/59691.Ikeda O, Ozaki M, Urata S, Matsuo R, NaokanoY, Watanabe M, Hisakura K, Myronovych A, Kawasaki T, Kohno K, Ohkohchi N: Autonomic regulation of liver regeneration after partial hepatectomy in mice. J Surg Res, 152 (2), 218-23 (2009).DOI: 10.1016/j.jss.2008.02.059.2. 3. Hurr C, Simonyan H, Morgan DA, Rahmouni K. Young CN: Liver sympathetic denervation reverses obesity-induced hepatic steatosis. J Physiol, 597 (17), 4565-4580 (2019).DOI: 10.1113/JP277994.

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