1.2.4 ADRbアゴニストに対する細胞の反応性の解析マウス肝臓の細胞懸濁液から分離したEpCAM(+)胆管上皮細胞およびThy1(+)門脈域線維芽細胞を,それぞれ単独で培養し,ADRb アゴニストであるISOに対する反応性を検討した.それぞれの細胞でcAMP上昇のISO濃度依存性には違いが認められたものの,いずれの細胞でもISO添加による細胞内cAMPが上昇した(図6).したがって,胆管を構成する上皮細胞および線維芽細胞が交感神経伝達物質への反応性を有することが明らかになった.図6. 胆管上皮細胞および門脈域線維芽細胞に対するISO添加によるcAMP上昇1.3 線維芽細胞を介した交感神経による胆管上皮細胞増殖促進効果門脈域線維芽細胞はFibroblast growth factor 7 (FGF7)などの液性因子を分泌することで,肝障害時に誘導される胆管上皮細胞の増殖を促進していることが報告されていた5).そこで,ISO刺激を受けた線維芽細胞が液性因子を介して胆管上皮細胞の増殖を制御している可能性を考えた.ISO添加後の線維芽細胞の培養上清を,培養中の胆管上皮細胞に添加した(図7A).2日後にWST1 assayを行ったところ,線維芽細胞培養上清の添加によって細胞数が有為に増加していた(図7B).ISO刺激によって線維芽細胞が分泌する増殖促進効果を示す分子としてFgf7あるいはTweakを候補と考えた.そこで,定量PCRを用いて両者の発現を検討したところ,Fgf7のmRNA発現が上昇していた.次に,培養上清中のFGF7をELISAで定量したところ,ISO添加によってFGF7がタンパク質レベルで増加する傾向が認められた.一方で,FGFR2に対する中和抗体を添加したところ,線維芽細胞培養上清による胆管上皮細胞の増殖促進効果がキャンセルされた(図7C).以上の結果から,線維芽細胞はISO添加によってFGFRリガンドを発現することで,胆管上皮細胞の増殖を促進すると考えた.以上の結果から,交感神経は胆管上皮細胞への直接作用によって管腔拡張を介した細胞増殖を促す一方,門脈域線維芽細胞に作用してFGF7などの増殖因子分泌を誘導することで,慢性肝障害によって誘導される胆管増生を促進していることが明らかになった(図8)6).― 81 ―
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