張能低下症例(E/A>1,E/e’>10)の血液中でAFPのレベルが上昇することがわかっていた.バイオバンクを保有する国内外の研究機関(新潟大学,順天堂大学,大阪大学)と連携し,より多くの症例数で検討を行うこととした.日本国内の施設が保管する検体とあわせ,血液中のAFPのレベルとHFpEF患者の臨床データ(経胸壁心エコー,採血データ,予後など)が相関するか検討を行った.結果及び考察分泌型タンパクに着目し検討を行なったところ,老化や肥満時に血液中で分泌型線維化促進分子AFPが上昇することが明らかになった.検討の結果,AFPは,1)ヒト老化個体,2)拡張不全型心不全(HFpEF)症例,3)心房細動症例,4)慢性腎障害(CKD)症例,5)サルコペニア症例,6)MASH症例,7)肥満モデルマウス,8)老化マウス,9)MASHモデルマウスの血漿で上昇することが明らかになった.遺伝子改変動物を用いたモデル等でAFPを抑制することで,1)肥満モデルマウスの左室拡張能や左心室の線維化,2)心房の線維化,3)MASHマウスモデルにおける肝臓の線維化,4)肥満モデルマウスの骨格筋および腎臓の線維化が改善することも明らかになった.加齢とともに血液中のAFPのレベルが有意に上昇するため,AFPを「老化促進タンパク」と定義した.加齢関連線維性疾患(A-FiD)を拡張不全型心不全(HFpEF),心房細動,非アルコール性脂肪性肝炎(MASH),慢性腎障害(CKD)など,加齢と共に罹患率が増加し組織の線維化が中心的病態を形成する疾患と新しく定義した.様々な検討の結果,AFPは機能不全に陥った褐色脂肪から分泌されていることがわかった.全身AFPノックアウトマウスに加え,Floxed AFPマウスを開発し,Ucp1 Creマウスと交配することで褐色脂肪特異的AFPノックアウトマウスを開発した.全身AFP KOマウス,褐色脂肪特異的AFP KOマウスに高脂肪食を負荷したところ,心臓の線維化が抑制され左室拡張能が改善した.肝臓の線維化も抑制されることがわかった.また,中神らとの共同研究でAFPに対するペプチドワクチンを作成し肥満モデルマウスに投与したところ,心臓の線維化がAFPペプチドワクチン投与により抑制され,拡張能が改善することもわかった.同様に肝臓の線維化も抑制された.肥満ストレスが加わると,褐色脂肪細胞で過剰な脂肪酸流入→cFOS→AFPという経路でAFPの発現が上昇することアデノ随伴ウイルスを用いた検討からわかった.また,肥満マウスの餌を通常食に戻し,運動をさせるとAFPの発現が褐色脂肪で低下することもわかった.加齢に伴いAFPの発現が褐色脂肪で上昇するが,その詳細な機序を現在検討中である.これらの検討を踏まえ,組織特異的にAFPの発現を強発現できるマウスを開発したいと考え,高橋ら(筑波大学)と共同研究を行いマウスAFP過剰発現マウス,ヒトAFP過剰発現マウスを開発し現在コロニーを増やしているところである.また,AFPに対する中和抗体の開発を行うこととし,現在シーズ抗体の探索を行なっているところである.全身AFP KOマウス,褐色脂肪特異的AFP KOマウスに肥満ストレスを加えると,肝臓のみならず,心臓,心房,腎臓の線維化も抑制されることが強く示唆された.HFpEF,心房細動,CKDの病態には組織の線維化が深く関連する.HFpEF患者は世界で約1300万人,心房細動患者は3000万人以上,MASH患者は世界人口の3-5%,CKD患者は世界人口の10-12%に達すると考えられている.HFpEF,MASH,CKDには未だに有効な治療法が存在しない点が医療上の問題であり,新たな治療法の開発は急務である.これらの疾患をA-FiDという概念で包括的に定義し,AFPを標的とした次世代の治療法開発に引き続き挑んでいきたい.― 74 ―
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