中外創薬 助成研究報告書2023
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のか,他の細胞への作用を介してMΦsに影響しているのか,これらの作用機序を明確にすることは困難である.そこで,MSCsによるMΦsへの作用機序をより明確にするため,これら2種類の細胞のみからなる共培養系を開発した.コントロールマウスのMSCsと炎症性MΦsを共培養すると,in vivoで見られるMΦsの抗炎症性への転換が再現された.本共培養系を駆使して,MSCsのMΦsに及ぼす作用機序を精査した.その結果,Pdgfra-CreER/R26RAR403マウスのMSCsと炎症性MΦsの共培養では,コントロールマウスのMSCsと炎症性MΦsの共培養で見られたMΦsの抗炎症性への転換が阻害されていた.このことから,MSCsが細胞自律的RAシグナル依存的にMΦsを炎症性から抗炎症性へと転換していることが明らかとなった.以上の結果から,MSCsでRAシグナルが活性化されることにより,筋形成を促進する分泌因子の発現が亢進するとともに,炎症関連遺伝子の発現が抑制されMΦsを抗炎症性へと転換することで,筋再生と炎症の収束を同時に制御していると考えられた.このように本研究は,細胞自律的RAシグナル依存的に筋再生と炎症収束をカップリングするMSCsの新たな生理的機能を明らかにした.おわりに筋再生に限らず損傷後の組織の再生には,損傷組織を除去するために炎症反応が必要となる.炎症は損傷組織の除去だけでなく,幹細胞を刺激するなど再生反応を促進する上でも重要である.しかし,長引く炎症は組織へのダメージを助長するため,組織が正常に再生するには炎症の収束が必要である.このように,再生と炎症の収束は連動する必要があるが,この連動をコントロールする機構は不明な点が多かった.筋再生におけるMΦsの重要性はよく研究されてきており,正常な再生には炎症性MΦsから抗炎症性MΦsへの転換が必須となる.このMΦsの転換時に,MΦs内部で起こる変化は研究が進んでいたが,MΦsの転換を外部から制御する機序はほとんど知られていなかった.本研究では,独自に発見した骨格筋に在住するMSCsの制御機構の解析を通して,MSCsがMΦsの転換に必要であること,そして分子レベルの機序としてMSCsにおけるRAシグナルがMΦsを転換させる上で必須であることを明らかにした.MSCsは骨格筋に限らず全身の様々な臓器に存在するため,本研究の成果は,組織再生と炎症の収束を連動させる普遍的システムの理解に発展すると考えられる.謝 辞本研究の実施期間中に,2度の所属機関の異動を経験することとなり,2023年2月に現所属である九州大学・生体防御医学研究所の教授を拝命することとなりました.2年間に渡り公益財団法人 中外創薬科学財団により研究助成を頂けたことは,新しい研究環境のセットアップなどにおいて,とても大きな支援となりました.この場をお借りして,改めて感謝申し上げます.引用文献…1. Mojumdar K, Liang F, Giordano C, Lemaire C, Danialou G, Okazaki T, Bourdon J, Rafei M, Galipeau J, Divangahi M, Petrof BJ: Inflammatory monocytes promote progression of Duchenne muscular dystrophy and can be therapeutically targeted via CCR2. EMBO Mol Med, 6 (11), 1476-92 (2014).― 65 ―2. Patsalos A, Simandi Z, Hays TT, Peloquin M, Hajian M, Restrepo I, Coen PM, Russell AJ, Nagy L: In vivo

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