図1. RAシグナルによるMSCsの脂肪分化および線維性細胞分化の抑制・組織学的解析筋再生の程度を精査するため,上記の筋再生実験に供せられた前脛骨筋に対して,HE(Hematoxylin-Eosin)染色や種々のマーカータンパク質に対する免疫蛍光染色を行った.・FACS(fluorescence activated cell sorting)解析上記の筋再生実験に供せられた前脛骨筋に対して,FACS解析を行った.再生筋組織をコラゲナーゼタイプⅡで酵素処理し,得られた単核細胞を各種細胞表面マーカーに対する抗体で染色した.MSCsのマーカーとしてはPDGFRαを用いた.MΦsのマーカーとしてはLy6CとF4/80を用い,Ly6ChighF4/80lowの細胞を炎症性MΦs,Ly6ClowF4/80highの細胞を抗炎症性MΦsとした.FACSプロファイルを得るための解析に加え,目的の細胞の遺伝子発現解析や培養を行うために,細胞ソーティングも実施した.・遺伝子発現解析(RNA-seq解析)ソーティングにより純化した細胞の網羅的遺伝子発現情報を得るため,RNA-seq解析を行った.ソーティングした細胞からRNA精製用のスピンカラムを用いて,トータルRNAを精製した.RIN(RNA integrity number)値を測定することで取得したRNAの品質を評価し,高品質なRNAが得られていることを確認しRNA-seq解析に供した.次世代シークエンサー解析によって得られた情報を,マッピングツール HISAT2によってアラインメントを行い,定量化ツールfeatureCountsを用いて遺伝子発現量を定量した.遺伝子発現の変動の分析にはDESeq2パッケージを用いた.変動した遺伝子群に生物学的解釈を加えるためGSEA(Gene Set Enrichment Analysis)を実施した.結果及び考察MSCsの筋再生を支持する特性と,病的変性を引き起こす特性の二面性の制御機構を明らかにする目的で,病的環境下(筋ジストロフィーモデルマウス)および正常な筋再生環境下の骨格筋からMSCをFACSを用いて単離し,遺伝子発現比較解析を行なった.その結果,病的環境下のMSCに比較して生理的環境下のMSCにおいて,レチノイン酸(RA)シグナル関連遺伝子が高発現していることを見出した.そこで,まず,RAシグナルがMSCs自体に及ぼす影響を調べるため,単離・培養したMSCsにRAを添加したところ,MSCsの脂肪分化,線維性細胞分化が顕著に抑制された(図1).このことから,RAシグナルにはMSCsの病的表現型を抑制する作用があると考えられた.― 63 ―
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