中外創薬 助成研究報告書2023
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― 55 ―実験方法T細胞の初期発生をin vitroで再現する方法として,Notchリガンドを発現させたストローマ細胞とリンパ球前駆細胞を共培養する方法が広く用いられている.この方法の問題点として,リンパ球前駆細胞は生体内に極わずかしか存在せず,また,極めてヘテロな細胞集団である事が挙げられる.我々はこの問題を解決するために,B細胞分化のマスター転写因子であるEBF1を欠損したリンパ球前駆細胞をB細胞分化条件下で培養することにより,T細胞分化能を保持したリンパ球前駆細胞株を樹立することに成功した8).この細胞はストローマ細胞上でサイトカインと共に培養すると容易に増殖し,Notchシグナルを誘導することで生理的なT細胞の初期発生をin vitroで再現することが出来るだけでなく,リンパ球欠損マウスに移入することでin vivoにおいて機能的な成熟T細胞へ分化する能力を有している.この細胞株を用いて均一な性質を持ったリンパ球前駆細胞やT前駆細胞をin vitroで増殖させることで,大量の細胞を必要とするクロマチン免疫沈降や,生化学的にタンパク質複合体を精製することが可能になった.さらに,Cas9を全身性に発現するマウスからリンパ球前駆細胞株 (Cas9-LP株)を確立し,レトロウイルスによるsgRNAの導入により発生段階特異的に標的遺伝子をノックアウトできるシステムを構築した9).そこで本研究ではCas9発現LP株を用いて,T細胞の初期発生におけるステージ特異的な,①RUNX転写因子欠損細胞のトランスクリプトーム解析,②RUNX転写因子の結合するゲノム領域の網羅的解析 (ChIP-seq解析),③RUNX転写因子複合体のプロテオミクス解析,④発生段階特異的なRUNX会合分子の機能解析を行った (図1).結果及び考察我々は,Cas9発現LP細胞をNotchリガンドを発現するストローマ細胞上で培養する事で,均一な性質を持ったLPから発生段階の異なるT前駆細胞を大量培養する方法を確立した.Notchシグナルを受けたT前駆細胞は3日間ほど多能性を有した前期T前駆細胞にとどまり,同じ培養をさらに7日間 (合計10日間)続けると全ての細胞がT細胞への運命決定がなされた後期T前駆細胞へ移行する (図1).この培養系にレトロウイルスによるsgRNAやcDNAの導入を組み合わせることで,LPや前期および後期T前駆細胞においてステージ特異的,且つacute (3日以内)にRUNX欠損や変異型RUNX1の影響を解析する実験系を独自に確立した.本研究において,この実験系を用いてリンパ球前駆細胞,前期および後期T前駆細胞を用いたRUNX1のChIP-seq及び,RUNX機能欠損細胞のトランスクリプトーム解析を行い,多くの発生段階特異的なRUNX結合ゲノム領域とRUNXターゲット遺伝子を同定した (図3).さらに,Myc-およびFlag-tagを付加したRUNX1発現レトロウイルスベクターを作製し,リンパ球前駆細胞および,前期,後期T前駆細胞に発現させ,これらの細胞を用いてtwo-stepアフィニティー精製,および質量分析を行うことで,ステージ特異的なRUNX1複合体の網羅的な同定を行った.RUNX1の過剰発現はリンパ球前駆細胞やT前駆細胞に細胞死を誘導する.そこで,Myc-Flag-RUNX1にERT2タンパク質をフュージョンし,タモキシフェン依存的に核移行するシステムを構築した(図4A).このシステムにより,タグ付きのRUNX1をタモキシフェン依存的に核移行させ,細胞死を誘導する前に発生段階特異的なRUNX1複合体の精製および質量分析を行い,多くの発生段階特異的なRUNX1会合分子と,いくつかの発生段階特異的なRUNX1の翻訳後修飾の同定に成功した (図4B).現在,ステージ特異的なRUNX1会合分子,RUNX1結合ゲノム領域,RUNXターゲット遺伝子の情報を統合的に解析し,RUNX1が発生段階特異的な機能を発

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