図2. co-factor redeployment modelかにしてきた.これらの解析から,発現量の変化しないRUNX転写因子が,様々な転写因子群と会合し,DNA結合サイトをダイナミックに変化させることで,発生段階特異的な機能を発揮していることを明らかにした1-7).すなわち,RUNX転写因子は特定のDNA配列を直接認識して結合する転写因子であるにもかかわらず,形成するタンパク質複合体によってゲノム上の結合領域をダイナミックに変化させ,T細胞の初期発生に必須の役割を担っていることを明らかにした.これらの研究成果から,新しい遺伝子発現制御メカニズムとして,転写因子は直接DNAに結合し遺伝子発現を制御するだけでなく,複合体構成分子を別の複合体から奪い取ることによって,直接的なDNA結合を介さずに遺伝子発現をコントロールする,という新しいコンセプト (co-factor redeployment model)を提示した1).図2に示すように,このモデルでは,転写因子BはコファクターCを奪い取ることによって直接的なDNA結合を介さずに遺伝子Xの発現を抑制する.さらに,転写因子AとコファクターCの発現量は変化しないが,発生段階特異的な機能を果たすことになる.このように,転写因子複合体の組み換えによる発現量の変化しない分子群のゲノム上の再配置が細胞系列決定の普遍的なメカニズムであると考えている.例えば,このコンセプトをiPS細胞に当てはめると,山中4因子がほぼ全ての細胞の形質をリセットするメカニズムを容易に説明しうる.このように,co-factor redeployment modelは細胞系列決定の分子メカニズムの解明に大きく貢献する可能性を秘めている.さらに,様々な細胞系列決定機構の破綻と腫瘍化などの疾患が,co-factor redeploymentの機能不全によって引き起こされることが想定され,これまで原因が不明であった様々な疾患の原因究明に貢献することが期待される.T細胞の初期発生においてRUNX転写因子は,転写因子AとコファクターCの役割を同時に担う極めてユニークな転写因子であると考えられる.そこで本研究では,Notchシグナル依存的に誘導されるT細胞の初期発生において,発現量の変化しないRUNX転写因子のゲノム上の再配置がどのように制御されているのか,特に発生段階特異的なRUNX転写因子複合体の再構築に着目し,RUNX転写因子を中心とした転写制御ネットワークが生理的なT細胞の運命決定を制御する分子機構の統合的な理解を試みた.― 54 ―
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