解析をおこなった.その結果,リンパ球分化およびその機能に関係する遺伝子(サイトカイン応答,リンパ球活性化制御)のエンハンサー領域において,活性化ヒストン修飾H3K4me1, H3K27acがともに顕著に低下していることを明らかにした(図1).これと対照的に,骨髄球分化関連遺伝子およびT細胞などのリンパ球分化の負の制御遺伝子のエンハンサー領域においてはH3K4me1およびH3K27acが増加していることが見出された(図2).これらの結果は老化造血幹細胞における分化プログラムの異常(ミエロイドバイアス)とヒストン修飾の特異的変化の関連を明確に示したものである.これら分化関連遺伝子にくわえて,アポトーシスの負の制御遺伝子のエンハンサー領域においても活性化ヒストン修飾の顕著な増加が見出された(図2).先行研究において,アポトーシスの開始抑制は老化によりDNA損傷を受けた造血幹細胞の生存に関与していることが報告されており3),われわれの結果はこのアポトーシス抑制が加齢によるヒストン修飾制御の変化に因る事を示唆した.図1. 加齢によるリンパ球分化関連遺伝子エンハンサーの活性化ヒストン喪失図2. 加齢による骨髄球分化・アポトーシス抑制関連遺伝子エンハンサーの活性化ヒストン獲得次に加齢に伴う各遺伝子のプロモーター領域における活性化ヒストン修飾(H3K4me3, H3K27ac)の変化を探索した.プロモーター活性化を標識するH3K4me3は加齢により一部領域で増加が観察されたが,その95%以上がプロモーター領域外で生じていた.これに対してアポトーシスの正の制御遺伝子および酸化ストレス応答,オートファジー制御関連遺伝子のプロモーター領域においては,老化による活性化ヒストン修飾の喪失がみられた(図3).上述のアポトーシス抑制と幹細胞老化の関連に加えて,実験的に酸化ストレス応答およびオートファジー制御を抑制したマウスでは造血幹細胞老化プロセスの亢進が報告されている4,5).われわれの結果はこれら広範な造血幹細胞老化メカニズムの基盤としてヒストン修飾状態の変化が働いていることを強く示唆する.― 49 ―
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