図4. Setdb1のユビキチンE3リガーゼの同定― 45 ―おわりに本研究により,H3K9 メチル化酵素の新たな制御機構の一端が明らかになった.Suv39h1 については,HP1 との結合に必要なアミノ酸配列を同定するとともに,ユビキチン化を受けるリジン残基を複数見出すことができた.今後,変異マウスの解析を通じて,生体内でのSuv39h1 のユビキチン化の役割を明らかにするとともに,Suv39h1の分解を担うE3 リガーゼの同定を目指す.一方,Setdb1 については,HP1結合能を失った変異体を用いることで,E3 リガーゼ候補としてTrim27 を同定した.Trim27 のSetdb1 に対する詳細な生化学的解析を進めるとともに,ノックアウトマウスの表現型解析からTrim27 の生理機能を探る.ヘテロクロマチンの破綻は,ゲノムの不安定性を引き起こし,がんや神経変性疾患など多くの疾患の発症・進展に関わることが示唆されている.実際,Suv39h1 やSetdb1 は乳がんや前立腺がんなど,様々ながん種において高発現しており,その発現レベルはがんの悪性度と相関する6,7,12).本研究で同定したような,H3K9 メチル化酵素の分解を制御する因子を標的とすることで,ヘテロクロマチンの破綻を伴う疾患に対する新たな治療法の開発が可能になるかもしれない.近年,H3K9 メチル化を介したヘテロクロマチン形成は,細胞老化の過程でダイナミックに変動することが報告されている13).H3K9 メチル化酵素の発現量は加齢に伴って減少傾向にあるが,一方で酵素の安定性がどのように制御されているのかは不明な点が多い.今後,H3K9メチル化酵素の安定性制御メカニズムが明らかになることで,ヘテロクロマチンの恒常性維持や加齢に伴うヘテロクロマチンの変化のメカニズム解明につながることを期待したい.本研究によって,H3K9 メチル化酵素の分解経路の基本的な仕組みが明らかになった.一方で,生理的な文脈でこの分解経路がどのような役割を果たしているのかについてはまだ不明な点が多く残されている.今後,本研究で同定したユビキチン化部位や,E3リガーゼの生理機能を個体レベルで解析することで,エピジェネティック制御の新たな原理が明らかになることを期待している.謝 辞TurboID 法によるSetdb1 のユビキチンE3リガーゼの同定にご尽力いただいた,共同研究者の徳
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