図1. HP1の完全欠損によりH3K9メチル化酵素が分解されるウス個体の発生に必須の役割を果たす一方2),Suv39h1 Suv39h2 はH3K9 のトリメチル化を触媒し,ゲノム上の繰り返し配列の抑制に重要である3).Setdb1(別名Eset)はG9a/GLP 複合体と同様にH3K9 のモノメチル化とジメチル化を触媒するが,H3K9me3 も触媒する活性を有する4).このようなH3K9 メチル化酵素は多様な生物学的プロセスに関与しており,これらの酵素の活性制御機構の解明は,発生やがん,神経変性疾患などを理解するうえで重要である.我々は最近,ほ乳類細胞にはH3K9メチル化酵素のタンパク質分解経路が存在することを見出した5).具体的には,H3K9 メチル化酵素であるSuv39h1 とSetdb1は,ヘテロクロマチンタンパク質1(HP1)との相互作用を失うと,ユビキチン-プロテアソーム系を介して分解されることを明らかにした(図1).この発見は,H3K9 メチル化酵素の活性が,転写レベルのみならずタンパク質安定性の制御を介しても調節されていることを意味している.本研究では,このH3K9 メチル化酵素のタンパク質分解経路に着目し,そこに関与するユビキチンE3 リガーゼの同定を目的とした.ヘテロクロマチンの破綻は,ゲノムの不安定化を引き起こし,細胞のがん化などに関与することが知られている.H3K9 メチル化酵素の発現異常やヘテロクロマチン領域の減少は,様々ながん腫において報告されている6,7).また,アルツハイマー病やハンチントン病などの神経変性疾患の患者脳でも,H3K9 メチル化の低下が確認されている8,9).したがって,H3K9 メチル化酵素の分解経路を制御する因子の同定は,これらの疾患の発症メカニズムの理解とともに,新たな予防・治療法の開発にも貢献すると期待される.実験方法H3K9 メチル化酵素の分解型変異体の作製 我々は以前の研究で,H3K9 メチル化酵素であるSuv39h1 とSetdb1 は,ヘテロクロマチンタンパク質1(HP1)との相互作用を介して安定化されることを明らかにしていた5).そこでまず,HP1 との結合に必要なSuv39h1とSetdb1のアミノ酸配列の同定を試みた.Suv39h1については,様々なアミノ酸欠失変異体を作製し解析した結果,N 末端側の41 アミノ酸を欠失させた変異体(ΔN 変異体)が,HP1との結合能を失うことが明らかにな― 42 ―
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