次に,樹状細胞前駆細胞の段階で核内コンパートメントの変化を誘導する転写因子の同定に挑戦した.バイオインフォマティクス解析を行ったところ,Interferon regulatory factor-8(IRF8)が関与する可能性が示された.以前の研究において,IRF8が樹状細胞前駆細胞で高発現し,樹状細胞関連遺伝子のエンハンサーを活性化することが示されている1, 2).そこで,IRF8欠損マウスから前駆細胞を単離してHi-C法で解析した.その結果,IRF8欠損マウスの樹状細胞前駆細胞では,核内コンパートメントの活性化型への変化が誘導されないことがわかった4).樹状細胞は感染が起こると生体防御に関わる様々な遺伝子を発現することが知られている.そこで,次にこれら感染防御に関与する遺伝子座のクロマチン高次構造が樹状細胞の分化においてどのように変化するのかHi-C法で解析した.その結果,これらの遺伝子を含むDNA領域は樹状細胞の分化を通して,感染刺激を受ける前から活性化型の核内コンパートメントに含まれていることがわかった.さらに,トポロジカル関連ドメインについても,感染刺激前の樹状細胞においてすでに十分に強く形成され,感染刺激後にも大きな変化が認められなかった.以上の結果から,生体防御関連遺伝子のクロマチン高次構造は感染の前にはすでに準備されており,それによって樹状細胞が病原体に対し素早く反応して必要な遺伝子発現が誘導できる可能性が考えられる(図2)4).図2. 生体防御関連遺伝子を含むゲノムDNA領域のクロマチン高次構造変化BPDCNにおけるクロマチン高次構造形成の意義を理解するためにヒトBPDCN細胞株CAL-1においてHi-Cを行った.その結果,BPDCN腫瘍化に重要なMYC遺伝子座近傍領域においてプロモーター・エンハンサー相互作用が新たに形成されていることがわかった.これがBPDCN腫瘍化にどう関わるかについて現在解析を進めている.おわりに今回のクロマチン高次構造解析から,細胞分化の過程において,その細胞にとって重要な遺伝子のクロマチン高次構造が大きく変化することがわかった.この知見を応用することで,BPDCNを含むがんなど病的な細胞のクロマチン高次構造を解析し,その性状を正しく理解することで,新たな診断・治療法開発につなげられる可能性がある.また,樹状細胞は病原体やがんに対する免疫応答に必須の役割を担うが,その過剰あるいは異常な活性化は自己免疫疾患を引き起こしたりがんを増悪させたりすることも知られている.本研究における解析データは,それらの疾患の理解や治療法の開発に役立― 38 ―
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