北川 大樹 東京大学大学院薬学系研究科生理化学教室 教授2022.4 ~ 2024.3― 313 ―はじめに中心体は高度に保存された細胞内小器官であり,主に微小管形成中心として機能する.特に,細胞分裂の際に紡錘体の両極に位置してその形状を規定するため,細胞内中心体数の増加は染色体の不安定化につながり,細胞がん化の原因になる.実際に多くのがん細胞で中心体数の増加が生じているという報告もある.以上のことから私は,①正常な細胞では中心体増加に対する特異的なストレス応答システムが機能していること,②がん細胞の一部ではこのシステムが破綻していること,の2点を想定し,このストレス応答システムの実態に迫ろうと考えた.以前に実施したCRISPR/Cas9法を応用したゲノムワイドノックアウトスクリーニングにより,このシステムに関与することが予想される遺伝子を48個抽出していた.前年度においては,CRISPRノックアウトスクリーニング結果を格納したデータベースDepMapを用いた情報学的解析による候補因子のクラスタリングや,SCATシステムを応用した中心体増加ストレス応答の特異的センサー開発を行っていた.実験方法1. SCATシステムを応用した特異的センサーの最適化前年度において,中心体増加ストレスに対して応答するCapsase-2の活性を利用した特異的センサーを開発し,実際に機能することを確認していた.今年度は,人工知能を利用したタンパク質立体構造予測アルゴリズムAlphaFold21)を利用して切断配列の最適化を実施し,センサーの感度向上を試みた.2. 繊毛病関連タンパク質HYLS1の機能解析前年度に実施した候補遺伝子48個の階層的クラスタリングの結果,HYLS1という繊毛病関連遺伝子2)が中心体の形成に重要であることが示唆された.この結果を受け,今年度においてはHYLS1の発現抑制や過剰発現を行った際の表現型を詳細に解析し,HYLS1の分子機能に迫った.中心体増加ストレス応答を介する細胞がん化抑制機構の解明竹田 穣
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