石川 智久 静岡県立大学薬学部薬理学分野 教授― 311 ―はじめに近年,エンドサイトーシス異常と疾患との関連が次々と明らかになっています.例えば,アルツハイマー型認知症において,エンドサイトーシス経路における輸送障害がアミロイドβの蓄積をもたらすことや,免疫性疾患においても,免疫関連膜タンパク質のエンドサイトーシスによる免疫機能の破綻が認められています.一方で,エンドサイトーシスの制御機構は不明な点も多いのが現状です.膵β細胞においても,最近,その機能維持におけるインスリン小胞エンドサイトーシスの重要性が証明されました.すなわち,エンドサイトーシス過程において融合細孔を閉じる役割を担うdynaminの欠損が,エンドサイトーシス不全だけでなく,インスリン分泌不全や糖尿病発症リスクの上昇をもたらすことが報告されました1).私が所属する研究室では,以前より,膵β細胞におけるインスリン小胞のエンドサイトーシスに着目した研究を推進してきました.そして,一般に不活性型とされるGDP型Rab27aが結合タンパク質である,coronin3やIQGAP1を介して,エンドサイトーシスを制御することを見出しました2, 3).一方で,複雑な過程からなるエンドサイトーシスをこれら2つのタンパク質だけで制御しているとは考えられません.そのため,さらなる結合タンパク質の存在が示唆されました.そこで,GDP型Rab27aの新規結合タンパク質の探索を実施し,低分子量Gタンパク質のグアニンヌクレオチド交換因子(GEF)として機能するタンパク質と小胞形成に関わるタンパク質を同定しました.そこで,これらの結合タンパク質とGDP型Rab27aの結合がエンドサイトーシスを制御することを想定し,その相互作用がエンドサイトーシスに及ぼす影響を評価しました.実験方法同定した低分子量Gタンパク質のGEFは,GDP型Rab27aとの相互作用により,その活性を抑制し,低分子量Gタンパク質を不活性型にすると想定しました.そこで,GDP型Rab27aやGEFタンパク質,そのドミナントネガティブ変異体が低分子量Gタンパク質のGTP型/GDP型比率を検討しました.小胞形成に関わるタンパク質は,細胞質に局在します.そのため,GDP型Rab27aにより,細胞質からエンドサイトーシスが起こる細胞膜上へとリクルートされることを想定しました.そこで,GDP型Rab27aが小胞形成タンパク質のリクルートやエンドサイトーシスに及ぼす影響を生化学実験や免疫染色法により検討しました.エンドサイトーシスを指向した新規治療薬開発基盤の確立小寺 聡史朗2022.4 ~ 2024.3
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