図1:新規リン脂質LPIP3の構造佐々木 雄彦 東京医科歯科大学医歯学総合研究科脂質生物学分野 教授はじめに細胞膜リン脂質の一つであるイノシトールリン脂質群(PIPs)は,形質膜や細胞小器官膜に局在し,結合タンパク質を介して様々な細胞機能を制御している1).我々は最近開発したPIPs包括的測定技術2)を用いて,がん組織で増加する新規のリン脂質を発見した.この新規リン脂質は,グリセロール骨格に脂肪酸鎖を一つと,リン酸基を介したイノシトール環を1つ,そのイノシトール環にリン酸基を3つ付加した構造を取った,リゾホスファチジルイノシトール3,4,5-三リン酸(LPIP3)であった(図1).この発見を契機に,LPIP3とはリン酸化パターンの異なるリゾホスファチジルイノシトール群(LPIPs)も発見した.LPIPsは水溶性が高く,細胞質や細胞外にも存在が確認されていることから,細胞膜外でも機能する可能性を秘めている.一方で,PIP3代謝酵素であるPTENのアイソフォーム(PTEN-L)は,細胞外に分泌されることが知られており3),細胞外でのLPIPs代謝機構の存在が窺える.その中でもLPIP3はがん組織での蓄積が顕著であったことから,その生理機能の解明は,脂質代謝の観点から展開するがん治療薬開発へと繋げることが期待できる.本研究ではLPIP3に着目し,その動態制御による難治性がんの新たな創薬ターゲットの提示を目指す.― 308 ―新規脂質動態制御によるがん抑制の創薬研究釘井 雄基2022.4 ~ 2023.6
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