― 306 ―結果及び考察GPCRヘテロ二量体クライオ電子顕微鏡による単粒子解析を実施した結果,単量体よりも大きく二量体と思われるサイズの密度が得られたものの,受容体の大部分を構成する膜貫通領域(TMD)の明瞭な密度マップを得られなかった.本研究ではGPCRヘテロ二量体を界面活性剤ミセルに包埋しており,GPCRが一般にTMD外の領域に特徴量の乏しいために明瞭な密度マップが得られなかったと考察している.MT1-Gsシグナルの分子基盤MT1-Gs複合体および,MT2-MT1キメラ-Gs複合体について,平均分解能3.0Åで構造を決定した.得られた立体構造から,これまで我々が報告していたMT1-Gi 複合体の立体構造1)で観測されたものと異なる結合様式でMT1とGsが結合していることが判明した.さらにこれまで報告されてきた他のクラスAのGPCRとGsとの複合体とも結合様式が異なっており,TM3(第3膜貫通ヘリックス)とICL2(第2細胞内ループ)のみを介してMT1および,MT2-MT1キメラはGsと相互作用を形成していた.さらに,ほぼ全てのGs複合体で観察されている,クラスA GPCR間で高度に保存された受容体のArg残基とGsのC末端領域のTyr391との相互作用が観察されなかった.これらのことから,MT1および,MT2-MT1キメラが特殊な複合体形成様式を示すことが明らかとなった.おわりにGPCRヘテロ二量体今後の展開としては,共役するGタンパク質などのエフェクター分子の特定や,細胞外に結合する抗体分子などの取得を行うことで細胞外領域の特徴量を増やしクライオ電子顕微鏡による単粒子解析を実現したい.さらに界面活性剤ではなく脂質ナノディスクと呼ばれる手法で受容体を包埋することで,より鮮明にTMDが見えるような改善も目指したい.MT1-Gsシグナルの分子基盤現在我々は,フレキシビリティが高いためにクライオ電子顕微鏡の密度マップでは密度が観測されなかったICL3という領域がサブタイプ選択的なGs共役を制御している,という仮説を立てており,この仮説検証をすべくICL3のダイナミクスを計測できるような生物物理学的な研究を今後展開していくことを計画している.また,一連の研究成果をまとめ,国際学術誌に現在投稿準備中である.謝 辞本研究は,公益財団法人 中外創薬科学財団奨学金および日本学術振興会特別研究員DC1の支援によって遂行されました.この場を借りて厚くお礼を申し上げます.また,大学院を通して指導してくださった濡木理教授をはじめ,様々に助言をくださった構造生命科学研究室の皆様に厚くお礼を申し上げます.
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