濡木 理 東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻構造生命科学研究室 教授はじめに昨年度の助成期間では,GPCRヘテロ二量体を網羅的に探索し,培養細胞で安定に発現する受容体のペアをリストアップした.今年度はin vitroでの精製系を構築し,クライオ電子顕微鏡による単粒子解析法を用いて構造決定することを目指したが,明瞭な電子密度マップの取得には至らなかった.そこで,以前まで取り組んでいたメラトニン受容体に関して共同研究を実施していたRalf Jockers博士(フランス・Institut Cochin)と大石篤郎博士(杏林大・医)らから,MT1サブタイプ選択的にGsシグナルが生じる報告を同時期に受けたため,この構造基盤を解明すべくMT1-Gsシグナル伝達複合体の構造解析をクライオ電子顕微鏡を用いて実施した.本報告書ではこの2点について述べる.実験方法GPCRヘテロ二量体HEK293細胞を用いてGPCRヘテロ二量体を発現させ,StrepタグとFLAGタグによるアフィニティークロマトグラフィーおよびゲルろ過クロマトグラフィーでの精製系を構築した.この精製サンプルを用いてクライオ電子顕微鏡による単粒子解析を実施した.MT1-Gsシグナルの分子基盤MT1のC末端にGsフラグメントを融合したコンストラクトをHEK293細胞に発現させ,FLAGタグによるアフィニティークロマトグラフィーおよびゲルろ過クロマトグラフィーでの精製系を構築した.この精製サンプルを用いてクライオ電子顕微鏡による単粒子解析を実施した.さらにRalf博士・大石博士らの実験により,WTではGsシグナルを生じないMT2サブタイプについて,TM5-TM6の部分をMT1のコンストラクトに置換することでGsシグナルを生じることが判明したため,このMT2-MT1のキメラコンストラクトについてもHEK293細胞に発現させ,FLAGタグによるアフィニティークロマトグラフィーおよびゲルろ過クロマトグラフィーでの精製系を構築した.この精製サンプルを用いてクライオ電子顕微鏡による単粒子解析を実施した.― 305 ―GPCRヘテロ二量体の分子基盤の解明岡本 紘幸2022.4 ~ 2024.3
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