野村 征太郎 東京大学医学部附属病院循環器内科学講座 特任助教はじめに拡張型心筋症(DCM)は心臓病の末期像である心不全の重要な原因疾患の一つで,若年者に発症しやすく重篤で, 心移植以外の根治的治療がない.近年遺伝的素因と発症の関連が注目され,次世代シークエンサー(NGS)の登場以後,飛躍的に研究が進みDCMの約半数弱に原因遺伝子変異が同定され,変異陽性症例は予後不良であることが知られるようになった1).しかし現在広く使用されているNGSはshort read sequencerであり一塩基変異(SNV)の同定に優れるが,最大read長が約300bpであるその特性から,500bpを超えるコピー数変異(CNV)等の構造変異の同定が困難である.これまでの解析手法は構造変異を有していても検出できず,変異陽性群を過小評価している可能性がある.現時点での陰性群にも極めて重症なDCMが一定数存在し,未知の遺伝的素因がDCMにおける発症と重症化に寄与していることが強く疑われ,更なる探究により層別化する必要がある.加えて遺伝子解析は臨床実装に至っておらず,コスト面,解釈性などに課題を抱えており臨床的検査から変異の有無を予測する需要が存在している.そこで本研究では新規技術を用いてCNVの検出を行い,心筋生検病理画像からCNVを含む変異陽性例を予測するモデルの構築を行う.実験方法1. 東京大学医学部附属病院においてDCMと診断され,ヘマトキシリン・エオシン染色がなされた心筋生検プレパラートを収集し,オリンパス社製VS120を用いて40倍の倍率において,標本領域をデジタル情報(WSI)化した.撮影されたスライド画像を256×256ピクセルに分割し学習用データセットとした.2. 上記のステップで心筋生検画像が取得された例において下記の通り解析を実施する.患者血液からDNAを抽出し,全ゲノム解析を実施した.配列データを解析し,変異を米国臨床遺伝学会のガイドラインに基づき病原性をPathogenic,Likely pathogenic,Variant of uncertain significance,Benign,Likely Benignの5群に分類した.心筋症関連遺伝子にPathogenic,Likely pathogenicを有さない例を,in silico CNV予測ツールで解析する.in silicoで検出されたCNVをSNP arrayおよびlong read sequencerを用いて確認した.3. 深層学習モデルの構築と改良 医用画像認識にも広く用いられる転移学習モデルResNet50を基盤に上記のラベルを予測する深層― 300 ―拡張型心筋症の病理組織から構造変異を含む遺伝子変異を予測する深層学習モデル構築井上 峻輔2022.4 ~ 2024.3
元のページ ../index.html#302