招聘される研究者Raymond Joseph Dolan受入研究者(大会長)成果報告プレナリーレクチャー 2PL-1講演タイトル:Neural replay in the human brain and its role in cognition第46回日本神経科学大会では当初はハイブリッド開催も視野に入れておりましたが,昨今の社会情勢を鑑み,4年ぶりの完全な対面で開催をし,2,700名を超える多数のご参加をいただきました.中でも8月2日(水)に開催したRay Dolan教授のプレナリー講演には525名の参加があり,大盛況の講演となりました.講演の内容は,Ray Dolan 教授のグループが研究を先導する neural replay の神経メカニズムについてでした.Neural replay は,げっ歯類では,迷路学習課題などの後,その学習内容を海馬の場所細胞が「再生」するような神経活動が報告されており,記憶の精緻化や記銘などの促進などの役割があるのではないかと考えられています.この neural replay をヒトにおいて研究するため,Dolan 教授らは新たな認知課題(物事の関係性を理解したうえで推論を行うために,認知的な地図をこころのなかで形成し,それに基づいて思考する課題)を考案し,この課題にかかわる脳活動を脳磁図(Magnetoencephalogray, MEG)のかたちで記録しました.正常な被験者では課題終了後の安静時に,海馬にてリップル波と呼ばれる特異的な神経活動が記録されたのに対し,統合失調症患者では,同様の神経活動が減弱していることが明らかになりました.これは,ヒトにおいても記憶の精緻化や論理的思考などに関係して,動物モデルで明らかになってきた mental replay が起きていて,それが重要な役割を果たしていることを示唆するものです. このような講演の内容は,神経科学の動物実験の成果をもとにヒトの神経活動の記録をデザインし,精神過程やその疾患の理解につなげる「計算論的精神医学(computational psychiatry)」の方法とその重要性をわかりやすく示すもので,今後のヒトを対象とした基礎神経科学の方向性に大きな示唆を与えるものでした.この度,貴財団からご支援いただきましたことで,Dolan 教授を招聘することができ,素晴らしいご講演をいただいたことで,本大会が実りある有意義な大会となりました.本大会のテーマ「銀河に輝く神経科学 - Towards the Galaxy of Neuroscience-」を体現できたのではないかと存じます.ご支援をいただけましたこと,改めて厚く御礼申し上げます.誠にありがとうございました.(2023 年 08 月 01 日~2023 年 08 月 04 日)University College London, UK / Max Planck UCL Centre福島県立医科大学医学部附属生体情報伝達研究所生体機能研究部門小林 和人― 286 ―第46回日本神経科学大会
元のページ ../index.html#288