分類される.CDK12は主にRNA polymerase IIのC末端のリン酸化を介してRNA転写の伸長・終結反応を制御するほか,標的遺伝子のエンハンサー領域に結合し,その転写を活性化することや,核スペックルと呼ばれる液滴構造を形成することなどが報告されている.一方,CDK12は協調して働くCDK13と機能が重複すること,既存のキナーゼ阻害剤ではCDK12以外のキナーゼも多数阻害してしまうこと,安定ノックアウト細胞の樹立が困難なために変異体の機能解析が難しいことなどの技術的な障壁から,その分子基盤の理解はいまだ不十分である.例えば,細胞周期の各時点において,CDK12が核内のどこに分布し,どのような機能を担っているのか,また,液-液相分離を介した液滴構造の形成が膵癌の治療標的としてどのような意義を有するのかは不明である.そこで本研究では,CDK12の分子動態・機能を時間/空間的に高い解像度で解明するため,ゲノム編集によりCDK12にFKBP12F36V(dTAG)を付加し,dTAGに対するタンパク分解誘導剤(dTAG13)を用いることで内因性CDK12分子を選択的かつ急速に分解可能な細胞を樹立する.さらに,内因性CDK12分解と同時にCDK12変異体を薬剤誘導性に発現させることで,内因性CDK12分子による機能代償を受けることなく,CDK12変異体の表現型を解析することを目指す.実験方法当院で樹立した患者由来膵癌オルガノイドを用いて,阻害剤ライブラリーによるスクリーニングを行い,Classical症例に比してBasal型症例で高い抗腫瘍効果を発揮する薬剤を探索した.患者由来膵癌オルガノイド,ヒト・マウス由来膵癌細胞株を用いて,同定された阻害剤およびその標的分子であるCDK12をCRISPR-Cas9システムによるゲノム編集を用いてノックアウトし,膵癌に対する抗腫瘍効果を検討した.CRISPR-Cas9システムを用いたゲノム編集技術によりknock-inを行い,CDK12にFKBP12F36V(dTAG)を挿入・付加した細胞を作成した.ドキシサイクリン(Dox)誘導性に,野生型から各種の変異を導入したCDK12を発現可能なコンストラクトを作成した.これらを併用することで,内因性CDK12を急速分解するとともに,野生型/変異CDK12を強制発現可能な細胞を樹立した.これにより,CDK12喪失に伴う細胞死・抗腫瘍効果をレスキューするのに必要なCDK12のドメインを探索した.結果及び考察当院で樹立した患者由来膵癌オルガノイドのうち,classical症例およびbasal症例に由来するオルガノイドで,主要な遺伝子変異プロファイル(KRAS変異,TP53変異,SMAD4変異,p16変異)が一致したものを選択した.これらの患者由来オルガノイドを384-well plateに播種,pilot studyで用いた薬剤を含む400種類を超える阻害剤で処理した後に,増殖活性を比較・評価した.その結果,pilot studyと同様,やはりCDK12に対する阻害剤が,basal型膵癌に対して高い抗腫瘍効果を示すことが明らかとなった.続いて,CDK12阻害剤を用いて,複数の膵癌細胞株でその抗腫瘍効果を比較したところ,やはりbasal型膵癌細胞株で優位に抗腫瘍効果(DNA損傷とアポトーシス誘導)が得られることを確認した.さらに,CRISPR-Cas9システムを用いたCDK12遺伝子破壊によるノックアウトでも,basal型膵癌において,CDK12阻害剤と同様の抗腫瘍効果が得られることを確認した.前述の通り,CDK12の主要な機能は転写制御だが,その機序の詳細は不明な点が多い.CDK12は― 256 ―
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