中外創薬 助成研究報告書2023
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(iii)(E),(Z)-1,1-ジ(ボリル)-2-ブテン-1-d1の調製と不斉アリルホウ素化反応重水素で標識された医薬品は重医薬品と呼ばれ,近年,注目されている.そこで我々は,これまで開発してきたα位にボリル基を持つアリルホウ素化試剤を重水化標識できれば,重医薬品を合成するうえで有用な反応剤になるのではと考えました.まず,4,4-ジ(ボリル)-1-ブテン7を合成した後に,重水素化することを試みました(式1).4,4-ジ(ボリル)-1-ブテン7にLiTMPを作用させたのち,ヨウ化亜鉛を加え,室温で1時間攪拌してから重水を加えたところ,4,4-ジ(ボリル)-1-ブテン-4-d1 8が収率79%,重水素化率57%で得られました.他に塩基や当量,重水素源を試しましたが,上記より高い収率および重水素化率では得られませんでした.そこでCrombieらによって報告されたジブロモメタンを重水化標識して,これを出発原料とする合成ルートに変更しました(式2).まず,ジブロモメタン(9)を10%重水酸化ナトリウムの重水溶液中で還流し,ジブロモメタン-d2(10)を収率20%,重水素化率98%で得ました.つぎに,ヨウ化銅とリチウムメトキシドの存在下で,ジブロモメタン-d2(10)にビス(ピナコレート)ジボロンを加えると,重水素化率97%のジボリルメタン-d2 11を収率76%で得ました.これにリチウムジイソプロピルアミド(LDA)を作用させた後,アリルブロマイドを加えると,4,4-ジ(ボリル)-1-ブテン-4-d1 8を収率78%,重水素化率96%で得ました.Choの報告を参考にして11),[Ir(cod)2]OTf錯体を触媒とする二重結合の移動を伴うトランス異性化を行ったところ,目的の(E)-1,1-ジ(ボリル)-2-ブテン-1-d1 12が収率92%,重水素化率97%で得られました(Scheme 5).またChenらの報告を参考にして12),Ni(dppp)Br2錯体を触媒とする二重結合の移動を伴うシス異性化を行ったところ,(Z)-1,1-ジ(ボリル)-2-ブテン-1-d1 13が収率80%,重水素化率99%で得られました.このように4,4-ジ(ボリル)-1-ブテン-4-d1 8の二重結合を異性化することで,EおよびZ体のα位にボリル基を持つアリルホウ素化試剤をそれぞれ得ることができました.キラルリン酸触媒((R)-TRIP)存在下で,(E)-1,1-ジ(ボリル)-2-ブテン-1-d1 12とアルデヒド3a, 3eを,それぞれ0度で攪拌するとanti-1,2-オキサボリナン-3-エン-3-d1 14を収率85%と72%,98% ee,anti:syn = >95:5,重水素化率98%で得られました(Scheme 6).― 252 ―

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