中外創薬 助成研究報告書2023
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ーブ(20 mg)に1,2-ジクロロエタン(1.0 mL)を加え,0度に冷やす.これに(E)-1,1-ジ(ボリル)-2-ブテン-1-d1(83.0 mg, 0.27 mmol)の1.0 mL 1,2-ジクロロエタン溶液を加え,24時間攪拌する.飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え,ジエチルエーテルで抽出し,有機層を乾燥後,カラムクロマトグラフィー(シリカゲル)で精製するとanti-1,2-オキサボリナン-3-エン-3-d1が得られる.収量31.9 mg(収率85%, 98% ee, anti:syn = >95:5, 重水素化率98%)(b) ベンズアルデヒド(10.6 mg, 0.10 mmol)と(Z)-1,1-ジ(ボリル)-2-ブテン-1-d1(39.7 mg, 0.13 mmol)にトルエン(0.3 mL)を加え,20度で15時間攪拌する.反応混合物をろ過後(ろ過助剤:シリカゲル),カラムクロマトグラフィー(シリカゲル)で精製するとsyn-ホモアリルアルコール-δ-d1が得られる.収量21.8 mg(収率76%, syn:anti = >95:5, 重水素化率99%)結果及び考察(i)二重結合異性化反応では合成することができない「3,3-ジ(ボリル)-1-ブテン」の調製とそれを用いた不斉アリルホウ素化反応の開発アリル位をメチル化した3,3-ジ(ボリル)-1-ブテンは,ポリケチド天然物を合成するためのビルディングブロックとして期待できるが,我々がこれまで開発してきた二重結合異性化応では合成することができません.そのため新たな合成手法の開発が必要であります.今回,我々はプロピンから1段階で合成可能な1,1-ジ(ボリル)-1-プロペン1を原料に用いた新しい合成手法を開発しました.1,1-ジ(ボリル)-1-プロぺン1に,嵩高い強塩基であるリチウムテトラメチルピペリジド(LiTMP)を作用させ,アリル位のプロトンを引き抜き,生じたアリルアニオンに対してヨードメタンを反応させると,位置選択的にメチル基が導入されました.本反応では,アリルアニオンのAの炭素上で位置選択的にメチル化が進行して3,3-ジ(ボリル)-1-ブテン2aが収率64%で得られました(Scheme 3).また,Bの炭素上がメチル化された生成物2a’も得られるが,その収量は極めて少なく,比にすると2a/2a’ = >20:1でありました.2つのボリル基の効果により電子が引き寄せられることで,電子の存在確率がAよりBの炭素上で高くなっているからだと考えています.それを裏付けるために,計算科学を用いてアリルアニオンのHOMOの軌道係数を調べたところ,Bの炭素上の軌道係数の方がAよりも大きいことが確認できました.さらに,1,1-ジ(ボリル)-1-プロぺン1にLiTMPを−78度で3時間作用させた後に求電子剤として様々なハロゲン化アルキルを加えました(Table 1).アルキルヨージドを用いた場合にBの炭素上で位置選択性に反応が進行し,中程度の収率でアルキル化生成物が得られましたが,ベンジルヨージドを用いた場合,収率が低く,目的化合物から分解した副生成物が多く得られました.また,トリメチルシリルクロリド(TMSCl)を加えた場合,Aの炭素上で位置選択的に反応が進行し,1,1-ジ(ボリル)アリルシランが収率80%,2/2’ = >1:20で得られました.これは,TMSClのような嵩高い求電子剤では,二つのボリル基で混み合っているBの炭素上では立体反発が大きいため,反応が起こり難かったと考えています.― 249 ―

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