Scheme 2. 比較:申請者らの研究とRoushらの研究剤以外を幾何選択的に合成することは必ずしも容易ではなく,また単離にも困難が伴います.そのゆえ入手容易な出発物質から簡便に調製する手法の開発が強く望まれています.我々は,入手容易な「末端アルキン」とピナコールボランから容易に合成可能な不飽和有機ホウ素化合物から,ロジウム触媒による二重結合異性化反応を用いることによりE体選択的にγ位に置換基を持つアリルホウ素化試剤を調製できることを見いだしました(Scheme 1)1).また,二重結合異性化反応とキラルリン酸(PA*)触媒を用いたアルデヒドとの不斉アリルホウ素化反応を結びつけること(ドミノ触媒反応化)により,ワンポットで末端アルキンから光学活性なホモアリルアルコールが直截的に得られることを報告しました2).この方法は,これまで合成が困難であったγ位に置換基を持つアリルホウ素化試剤を,単離することなく系中で平衡的に調製し,ホモアリルアルコールを簡便に合成する手法として注目を集め,追随研究を誘起するに至っています.最近では,遷移金属触媒を用いた二重結合異性化反応を用いて,これまでに合成例のないボリル基をさらにもう一つ持つ新しいアリルホウ素化試剤の調製を行なっています.まず,白金触媒を用いた1,2-ジボリル化反応により「末端アルキン」から調製された前駆体が,ルテニウム触媒による二重結合異性化反応によりE体選択的にβ位にボリル基を持つアリルホウ素化試剤に調製されることを見いだしました3).つぎに,コバルト触媒を用いた1,1-ジボリル化反応によって「末端アルキン」から調製された前駆体が,パラジウム触媒による二重結合異性化反応によりE体選択的にα位にボリル基を持つアリルホウ素化試剤を与え,続く不斉アリルホウ素化反応によりδ位にホウ素が置換したanti-ホモアリルアルコールが得られることを報告しました4).本手法ではα位に置換基を持つアリルホウ素化試剤を用いた不斉反応にもかかわらず,「不斉非対称化」を利用した不斉アリルホウ素化反応であるため,Roush試剤のように試剤を不斉合成する必要がありません(Scheme 2)5-8).Scheme 1. 末端アルキンを起点とするホモアリルアルコールの立体選択合成― 247 ―
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