大脳皮質層構造のNissl染色像.成体野生型マウス (左)と比較して,Smc3+/-マウス (右)では,大脳皮質の層構造に大きな変化は認められなかった.― 243 ―図2. Smc3ヘテロ欠損マウスにおける大脳皮質の層構造< 考察 >本研究によって,神経細胞特異的にコヒーシンを欠損したtau-Cre; Smc3 Flox/Flox マウスは成長が遅滞する可能性が示唆された.また,Nissl染色による組織学解析を行った結果では,コヒーシン欠損によっても,大脳皮質の層構造に大きな異常は認められなかった.この結果は,コヒーシンは中枢神経発生期における細胞遊走には大きく寄与しないことを示唆している.今後,特異的抗体を用いた組織免疫染色などによって,神経細胞の形態を詳細に評価し,コヒーシン欠損による発生障害のメカニズムを明らかにする.おわりに本研究は,ゲノム高次構造の破綻により生じる中枢神経系の発達異常のメカニズムを明らかにすることを目的として開始した.細胞の個性を決定するとも言うべき分化の過程には,遺伝子発現調節機構が密接に関与している.細胞はひとつの受精卵から細胞分化の過程を経て産まれたもので,全て同一なゲノムDNA配列を持つ.それにも関わらず,形態・機能などが大きく異なる,多様な種類の細胞が存在する.これは,それぞれの細胞によって,発現している遺伝子が異なるためである.即ち,細胞の多様性は,各細胞のゲノムの違いによるものではなく,遺伝子発現の違いにより生み出されている.分化の過程における重要な遺伝子発現調節には,エピジェネティックな機構が重要な役割を果たす.エピジェネティック因子はゲノムの塩基配列に影響することなく,遺伝子の発現を調節する.染色体接着因子であるコヒーシンは,ゲノム上で遺伝子間の区切りとして,エピジェネティックな遺伝子発現調節機能を有することが報告されてきた3).コヒーシン複合体は,その環状構造を利用して,リングの中にゲノムを束ね,空間的に離れたエンハンサーとプロモーターの適切な相互作用を可能にすることがわかってきた4,5). ヒトのコヒーシン関連遺伝子の変異により引き起こされる疾患であるコルネリア・デ・ランゲ症候群 (CdLS)では,姉妹染色体分配に異常を呈さないにも拘らず,精神遅滞や自閉症様行動,四肢の
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