4. 動物の飼育条件所属機関動物実験施設の管理条件下で飼育している.動物の取扱いについては所属機関の指針に基づいて,所属機関の動物実験委員会の承認を得たうえで行っている.結果及び考察< 結果 >1. 発生期の中枢神経系におけるコヒーシンの発現大脳皮質は認知機能,記憶,随意運動など,脳の高次機能を司る.大脳皮質は脳表面から1~6層にわけられる層状の構造を有する.マウスでは,大脳皮質の神経細胞は生後11日目あたりから産生され始める.まず,大脳皮質におけるSmc3の発現を検証した.生後12, 14, 16, 18日目の全てのマウス胎児脳でSmc3陽性細胞が検出された.Smc3は脳の局所に発現しているわけではなく,脳の全層の細胞に発現していることが判った.また,胎生期~成体までの各発生段階におけるSmc3の発現をReal-time PCRを用いて定量的に検証した.その結果,胎生期~生後にかけて高い発現量が見られ,その後徐々に発現が減少することがわかった.2. コヒーシン欠損マウスの解析Smc3 +/FloxマウスとWild-typeマウスの交配では,Smc3 +/+とSmc3 +/Floxがおよそ同数生まれ,メンデルの法則に従った産仔数を示すことがわかった.しかしながら,CAG-Creマウスとの交配によって得られたヘテロ欠損マウスSmc3 +/-マウス同士の交配から,ホモ欠損マウスSmc3 -/-マウスが産まれることはなかった.コヒーシンの機能が欠損したことによって,全身の細胞で細胞分裂などが障害された結果,胎生致死となった可能性が考えられる.また,tau-Cre; Smc3 +/Floxマウス (ヘテロ欠損マウス)と,Smc3 Flox/Floxマウスを交配した場合,tau-Cre; Smc3 Flox/Flox マウス (ホモ欠損マウス)の匹数はメンデルの法則により予測される数よりも少ない傾向にあった.tau-Cre; Smc3 Flox/Flox マウスは,他のgenotypeの同腹仔と比較して小さい傾向が見られた.3. コヒーシン欠損マウスの組織解析脳の高次機能に関わる大脳皮質において,Smc3の発現を認めたことから,大脳皮質におけるコヒーシンの機能について検証した.大脳皮質は脳の表面から1~6層に分かれた層構造を示す.発生期,神経前駆細胞は脳室付近で産生され,深層 (第6層)から表層 (第1層)へと遊走し,層構造が形成される.コヒーシンが大脳皮質の発生における細胞遊走に関わるか検証するため,主に神経細胞を染色するNissl染色を行い,野生型マウス,コヒーシン欠損マウスの大脳皮質の層構造を調べた.胎生期から成体までの各発生段階において,大脳皮質の層構造を検証したが,野生型マウスと比較してSmc3 +/-マウスでは大脳皮質の層構造の変化は認められなかった (図2).このことは,コヒーシンは大脳皮質の層構造形成に大きな影響を与えないことを示唆している.― 242 ―
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