図2. 筋幹細胞特異的Piezo1欠損マウスの表現型3)PIEZO1の機能・局在調節機構のさらなる解明:PIEZO1が筋幹細胞の細胞分裂時に中央体部分に集積することが示されたが,その局在を規定する機能を明らかにするため検討を進めている.興味深いことに,PIEZO1局在だけでなくPIEZO1-tdTomatoの発現は個々の細胞にて異なることが示された.筋幹細胞の単離の際に,PIEZO1発現が高い細胞群(PIEZO1High)と低い細胞群(PIEZO1Low)について,PIEZO1Highの細胞群では筋幹細胞特異的転写因子Pax7の発現が顕著に高いこと,一方でPIEZO1Low細胞ではPax7の発現量減少ならびに,筋分化過程の転写因子Myogeninの発現量の増加が認められた.さらにPIEZO1high, PIEZO1lowの細胞群でのトランスクリプトーム解析を行ったところ,細胞骨格の再編成等に関わる因子がGene Ontology解析にてエンリッチされた.以上,PIEZO1の発現量の違いにより,筋幹細胞の性状が規定されることが示唆された.またPIEZO1と結合する因子群の同定を行うべく,プロテオーム解析も進めている.永森收志博士(慈恵医大)との共同研究により,PIEZO1-tdTomatoに結合する因子の同定を進めている.プロテオーム解析において界面活性剤の検討は非常に重要な位置づけを占める.現在までにプロテオーム解析に関する条件全般の最適化を行っており,引き続き実験を遂行したい.4)骨格筋幹細胞における機械受容機構の多様性:PIEZO1以外にも,物理的な力付加により活性化される機械受容イオンチャネルが存在する.TRP(Transient Receptor Potential)チャネルファミリーは元来ショウジョウバエの光受容器から同定されたイオンチャネル群であり,温度,pH,酸化ストレスなど,様々な活性化機構が知られている7).TRPチャネルのうち,いくつかは機械受容イオンチャネルとしての活性を有することが知られている.我々はTRPファミリーの中で,筋幹細胞にて高発現するイオンチャネル群に着目した.そのうちの一つについて着目した.TRP「X」チャネルは特異的なイオン透過性を示し,細胞の生死に関わることが報告されている.我々は骨格筋幹細胞における同チャネルの機能解明を目指して,Trpx欠損マウスの作出および表現型解析を目指した.骨格筋幹細胞に特異的なCreレコンビナーゼ(Pax7-CreERT2)を用いたところ,興味深いことにTrpx欠損マウスでは筋再生の著しい不全がみられたことから,Piezo1欠損と比較してより強い表現型が認められた(図3).一方でTRPXを認識する抗体を用いた免疫染色の結果,TRP「X」は筋幹細胞の形質膜上に局在― 236 ―
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