衛星細胞特異的Piezo1欠損マウスの作出・解析を行った。タモキシフェン投与(腹腔内注射、5日間)した後、タンパク質レベルでの発現減少を検討するため、カルシウムイオン指示薬Fura-2を用いて筋衛星細胞でのカルシウム動態を検討した。その結果コントロール細胞と比較してPiezo1欠損筋幹細胞では微細なカルシウム振動が有意に減弱したことから、PIEZO1は筋幹細胞にてカルシウムイオン透過型イオンチャネルとして機能することが示された。2)機械受容イオンチャネルPIEZO1の筋衛星細胞での機能解析:続いて,筋再生時のPIEZO1の機能を検討するため,カルジオトキシンを筋注するし筋線維の壊死を誘導した.筋線維はカルジオトキシンにより壊死が惹起されるが,筋幹細胞はカルジオトキシンに耐性を示し,筋再生能のモデル系として多用される.カルジオトキシン注入後7日目の筋再生過程を検討したところ,野生型では再生過程の筋線維が見られたものの,Piezo1欠損マウスでは筋組織の線維化や免疫細胞の浸潤が依然認められたことから,筋再生能が著しく低下していることを示された(図2).PIEZO1が関わる筋再生機構を明らかにするために,単離筋幹細胞を用いて実験を行った.まず筋線維を単離後,筋幹細胞を単離筋線維上で培養し,活性化された筋幹細胞の増殖能を検討した.Pax7陽性細胞(=筋幹細胞)を検出したところ,Piezo1欠損筋衛星細胞では増殖能の低下が認められた.またこの現象はFACSにて精製した筋衛星細胞を培養した場合でも認められたことから,PIEZO1は幹細胞の増殖に関わることが示された.この表現型の原因を明らかにすべく,PIEZO1-tdTomatoマウス由来の筋衛星細胞を用いて性状解析を試みた.単離筋衛星細胞でのPIEZO1-tdTomatoの局在変動を検討したところ,筋幹細胞の形質膜に一様に存在していたPIEZO1-tdTomatoタンパク質が,幹細胞の分裂時には分裂溝付近に限局して局在変動したことから,PIEZO1が幹細胞の分裂過程に寄与する可能性を示している.実際,Piezo1欠損マウス由来の幹細胞において,タイムラプス撮影を行ったところ,筋幹細胞の分裂過程にて分裂能が遅延する細胞群が認められた.形質膜において発現するイオンチャネル群は,特定の細胞内シグナル伝達機構を活性化することにより特異的な細胞・生体応答をもたらす.そこで筋幹細胞におけるPIEZO1下流経路の同定を試みた.筋幹細胞では硬さが可変的に変動することで,幹細胞としての性状が規定されるが,その上流経路には低分子量Gタンパク質RhoAを介した細胞骨格の再編成が寄与すると報告されている.また我々は筋芽細胞を用いた検討にて,PIEZO1の下流経路としてRhoA/ROCKを介したミオシン軽鎖リン酸化が関与することを明らかにしている.そこでPiezo1欠損筋衛星細胞での細胞骨格の再編成およびRhoAの寄与を検討した.RhoAの下流経路にはミオシン軽鎖(MLC2)のリン酸化が関与することから,ミオシン軽鎖のリン酸化の検出を行ったところ,同欠損細胞ではMLC2のリン酸化能の低下とともに細胞骨格(アクトミオシン)の形成が損なわれていた.さらにPiezo1欠損で見られた幹細胞の増殖能の低下は,RhoA経路の活性化剤にてレスキューされたことから,PIEZO1-RhoA/ROCK-アクトミオシン経路が筋幹細胞に重要な役割を果たすことが示唆された.― 235 ―
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