化に関連した遺伝子の発現レベルが低いことがわかった.また,CD73陽性細胞と陰性細胞を別々に1週間培養したところ,CD73陽性細胞から陰性細胞が出現したが,陰性細胞から陽性細胞は出現しなかった.これらの結果は,Replic細胞が培養中にCD73陽性細胞から陰性細胞へと分化し,筋線維芽細胞の性状を獲得することを示している.次に,尿管結紮により線維化した腎臓からRNAを採取し,各Replic細胞分画の遺伝子発現と腎線維化における遺伝子発現様式を比較した.その結果,Replic細胞のCD73陽性細胞からCD73陰性細胞への分化は,腎線維化の進行を反映していることが示された.以上の解析結果から,Replic細胞の培養系は,慢性腎臓病で進行する線維化の病態を再現する解析モデルとして適していると考えられた.Replic細胞を用いた腎線維化関連遺伝子の網羅的探索系の確立次に,本研究で明らかにしたReplic細胞の分化系を活用し,腎線維化関連遺伝子の網羅的探索系の確立を試みた.通常の培養条件では,CD73陰性Replic細胞がCD73を再発現することはないが,CD73陰性Replic細胞を特殊な環境で培養するとCD73陽性の線維芽細胞に脱分化することがわかった.そこで,CD73陰性Replic細胞にマウスshRNAライブラリーを発現するレンチウイルスを感染させたところ,少数のCD73陽性細胞が出現した.CD73を再発現したReplic細胞を単離・培養し,ゲノムDNAを精製した.ウイルスベクター配列に相当するプライマーを用いたPCRによって,CD73再発現細胞に導入されたウイルスベクター中のshRNA配列を増幅し,Ampliconシーケンスに供した.得られた配列から,CD73の再発現および筋線維芽細胞の分化・脱分化に関連する候補遺伝子を同定することができた.候補遺伝子の発現解析や機能解析を行うことにより,腎線維化の責任遺伝子や治療標的を探索することが可能となると考えられた.おわりに本研究では,独自開発したReplic細胞の性状解析を実施し,Replic細胞が腎線維化関連遺伝子の探索に有効であることを示した.今後,本研究で確立した遺伝子探索と同定した候補遺伝子の機能解析を進めることにより,腎線維化の分子病態解明を目指す.腎線維化の治療標的を同定することは,アンメットメディカルニーズの高い慢性腎臓病の理解につながる.Replic細胞はマウスに由来するため,ヒト細胞における検証が必要となる.我々は,慢性腎臓病患者の尿に含まれる腎臓由来の生細胞を単離し,培養する技術を確立しており,尿中腎細胞にはCD73陽性のEPO産生性細胞,すなわちヒトREP細胞が含まれることを確認した7,10).尿中のヒトREP細胞やヒトREP細胞由来の細胞株を用いて,ヒト病態を解析する準備が整っている.謝 辞本研究を遂行するにあたり,多大なご支援をいただきました公益財団法人 中外創薬科学財団に深く感謝申しあげます.また,本研究の共同研究者である東北大学医学系研究科 酸素医学分野のメンバーに厚くお礼申しあげます.引用文献 1. Yamazaki S, Souma T, Hirano I, Pan X, Minegishi N, Suzuki N, Yamamoto M: A mouse model of adult-― 229 ―
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