腎臓病の環境下では,腎間質線維芽細胞(REP細胞)が筋線維芽細胞へと形質転換し,腎線維化が進行する.― 227 ―はじめに腎臓病患者数は国内外で人口の1割以上を占めており,増加の一途をたどっている.しかし,腎臓病は成因や病態が複雑であり,治療法が確立されていない.そのため,最終的には透析や移植などの腎代替療法が必要となり,各国で医療費高騰の主因となっている.また,腎臓は赤血球増殖因子エリスロポエチン(EPO)や昇圧因子レニンなどを分泌することから,腎臓病は貧血などの様々な合併症を介して生命予後に関わっており,アンメットメディカルニーズが高い疾患である1-6).腎臓病の成因や病態は多様であるが,慢性期には共通して腎臓間質の線維芽細胞から筋線維芽細胞が出現・増殖し,線維化が進行する.筋線維芽細胞はコラーゲンなどの細胞外基質を分泌しながら増殖し,障害部位を保護するが,過剰に増殖して腎機能を低下させることが知られている.実際に,腎線維化の進行は腎機能低下と相関することから,線維化の解消や抑制が慢性腎臓病に対する治療戦略として有効であると考えられている7-10).しかし,腎線維化機序には不明な点が多く,腎線維化の治療標的探索や治療法開発は進んでいない.腎線維化で出現する筋線維芽細胞の由来は,腎臓に内在する線維芽細胞,血管内皮細胞,尿細管上皮細胞などに加えて,骨髄由来の細胞など,様々な説が提案されていた.我々は,遺伝子改変マウスの作出と解析を通して,腎臓病の病態解析に取り組んでおり,EPO産生性の腎間質線維芽細胞(renal EPO producing cell;REP細胞)が病体環境下で形質転換することが,筋線維芽細胞の主要な供給源であることを明らかにした11).また,この形質転換は可逆的であることを発見し,線維化が治癒しうることを提唱した(図1).さらに,マウスREP細胞の不死化細胞株「Replic細胞」を樹立し,線維化腎の筋線維芽細胞のモデル解析系としての有用性を報告した7-10, 12).本研究では,Replic細胞を活用して,腎線維化の分子機構の理解と治療標的遺伝子の同定を試みた.図1. 慢性腎臓病における腎線維化の進行機序実験方法Replic細胞の培養と遺伝子発現解析Replic細胞は,単一のREP細胞由来の細胞株であり,マウス腎臓から単離したREP細胞に変異型HRAS遺伝子を導入することにより不死化されている(Sato et al., Sci Rep 2019).培養には,血清を10%含むDMEM培地(ナカライテスク)を用いた.フローサイトメトリーと細胞分取は,抗CD73
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