膜輸送体が必須である.ところが,既知の因子では尿酸の体内動態の全容を説明することはできず,分子実体のさらなる解明が求められている.本研究では,生理的に重要なビタミンC輸送体であるSLC23Aファミリー分子に着目し,これらが尿酸輸送体としても機能する可能性を検討した.実験方法私たちの先行研究で,尿酸とビタミンCの両方を基質とする生理的に重要な輸送体:SLC2A12/VCEPを同定したこと1, 2),ならびに,大腸菌における尿酸輸送体:YgfUのヒトホモログを探索した結果,SLC23As/SVCTs(sodium-dependent vitamin C transporters)が見出されたことなどを踏まえ,SVCT1/SLC23A1とSVCT2/SLC23A2を解析対象とした.結果及び考察哺乳類培養細胞発現系を用いた輸送実験を行った結果,ヒトSVCT1またはヒトSVCT2を発現させた細胞において,非発現細胞よりも高い尿酸取り込み活性が認められた3,4).一方,Na+を除いたインキュベーションバッファーを用いた場合には取り込み活性が認められなかったことから,SVCTsは細胞外→内へのNa+依存的な尿酸輸送を担うと考えられた.さらに,SVCTsによる尿酸輸送の濃度依存性について解析した結果,Km値はSVCT1で1.51 mM,SVCT2で3.86 mMと算出され,ヒトの血液中における生理的な尿酸濃度域ではSVCTsによる尿酸輸送は飽和しないことが示唆された.一方,SVCTsの尿酸輸送に対するビタミンCのIC50値はSVCT1で95.1 μM,SVCT2で36.6 μMと算出され,SVCTsによる尿酸輸送は血液中のビタミンC(健常者で数十~100 μM)による影響を受ける可能性が示唆された.遺伝子欠損マウスが生存可能であるSVCT1については,マウスSvct1も尿酸輸送活性を有することを確認した後,CRISPR/Cas9システムを用いて遺伝子欠損(KO)マウスを作出した.Svct1 KOが尿酸の体内動態に与える影響を調べたところ,Svct1 KO群における血清尿酸値は対照群と比べて有意に低かった3).腎臓に発現するSVCT1が尿からのビタミンC再吸収を担っていることを踏まえると,尿酸の再吸収にも一定の寄与があるかもしれない.Svct2 KOマウスは出生後数分で死に至るため,尿酸輸送体としての生理的役割を検討するためには,条件付き遺伝子欠損アプローチなどが必要であろう.また,尿酸輸送体としてのSVCT2の輸送特性を利用し,哺乳類培養細胞において尿酸排出活性を測定するための新たな実験系の構築にも取り組んだ4).SVCT2を発現させた培養細胞に放射標識尿酸を十分にプレロードした後,Na+非含有バッファー(SVCT2が機能しない条件)に切り替え,細胞内からバッファー中に放出された放射活性を経時的に測定した.その結果,尿酸排出輸送体として知られるABCG2をSVCT2と共発現させた細胞においては,SVCT2のみを導入したコントロール細胞よりも高い尿酸排出活性が認められた.おわりに本研究で明らかになったSVCTsの二重機能性は,水溶性抗酸化物質の体内動態制御機構についての理解を深めるものであり,尿酸とビタミンCの利用に関する進化の観点からも,今後のさらなる発展が期待される.― 224 ―
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