図1. ニューロンの核は加齢に伴いダイナミクスが低下するそれでは,どうして老化したニューロン核は形態変化しにくいのだろうか?申請者らはその原因の一つとして核がかたくなっているのではないかと考えた.そこで原子間力顕微鏡を用いて,若齢マウスあるいは老齢マウスから抽出したニューロンの核のかたさを測定したところ,ニューロンの核は加齢に伴ってかたくなることがわかった.以上の結果から,ニューロンの核は加齢に伴ってダイナミクスが低下する(形態が変化しにくく,かたい)ということがわかった(図1)1).老化細胞における核の形態異常の意義はこれまであまりわかっていなかったが,その理由の一つは,形態異常という現象が定量性に欠け,細胞機能に直結しにくいことにあると考える.本研究では,ニューロンでも加齢に伴って核がへこむことに加えて,かたくなるという物理量として定量できて,核の機能に与える影響も考慮しやすいパラメーターの変化を見出すことができた.今後,他の細胞種の老化でも核がかたくなるかどうかを調べることで,細胞老化に伴って核のダイナミクスが低下するという減少の普遍性を明らかにすることができる.また,核のダイナミクス低下の意義を調べるためには,その分子メカニズムを明らかにする必要がある.本研究では,マススペクトロメトリーを用いて若齢・老齢ニューロン核のタンパク質組成を調べたところ,SUN1という核膜に局在するタンパク質の発現が,加齢とともに増加していることを見出した.これまでの報告で,SUN1は核のかたさを保つために重要であることがわかっている.そのため申請者らは,SUN1の発現上昇が,ニューロン核がかたくなることの原因の一つであると考えており,今後それを検証することで,核のダイナミクス低下の意義に迫ることを目指している.ニューロン可塑性には,外界からの刺激に対して適切に遺伝子発現を変化させることが重要である.遺伝子発現の調節にはクロマチン相互作用がフレキシブルに変化することが重要だが,かたくなった核ではそれが適切にできなくなっている可能性がある.すなわち,ニューロンの核がかたくなることは,老化ニューロンにおいて遺伝子発現が適切に調節できず,ニューロン可塑性が低下することのメカニズムの一つになっているかもしれない.今後は,核のダイナミクス低下の重要性を明らかにすることで,脳の老化の予防や治療に役立てたいと考えている(図2).― 221 ―
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