― 220 ―that stress-induced neuronal epigenomic changes are partly responsible for changes in brain function. I will continue to elucidate the role of the neuronal epigenome in stress in the future.はじめに私たちは,加齢や病気,人間関係など,生きている中で様々なストレスに曝される.それぞれのストレスは,その後長期にわたって脳の機能を変化させるが,そのメカニズムは必ずしも明らかではない.エピゲノムは,DNAやDNAがまきつくヒストンに施される化学修飾のようなナノメートルレベルの構造から,クロマチンの3次元構造や核構造といったマイクロメートルレベルの構造のマルチスケールな情報である,これらの化学修飾や構造は,最終的に遺伝子の転写状態の制御を介して細胞の機能を変化させる.そのため私は,生物が経験するストレスは,脳内で重要な役割を果たす細胞であるニューロンのエピゲノムを変化させ,それが遺伝子発現状態を変えることで,脳の機能の変化を引き起こすのではないかと考えた.本研究では,この仮説を検証することで,ストレスによる脳機能変化を理解することを目指した.ストレス反応の一つである老化の過程では,様々な種類の細胞において,核の形態がいびつになることがわかってきており,現在では核の形態を指標に細胞の老化具合を評価するような研究も進んでいる.しかしながら,老化細胞において核の形態がいびつになるメカニズムや意義はほとんどわかっていない.これまでにニューロンの核の形態については,通常の状態で外界から刺激を受けるとへこむこと,またパーキンソン病やハンチントン病のような神経変性疾患の患者でいびつになることがわかっていた.一方で,自然老化の過程で核の形態が変化するかどうかは不明であった.実験方法本研究ではまず,外界から刺激を受けたときのニューロンの核の形態変化の過程を,生体脳タイムラプスイメージング手法にて観察することを目指した.ニューロンにおいて核の形態を可視化できるマウス(Nex-Cre+/−; SUN1-GFP+/−)を作製し,2ヶ月齢の若齢大脳皮質視覚野のニューロンを観察するための顕微鏡の窓を取り付け,マウスの眼に光を当てることでニューロンの生理的な刺激を実現した.また,核の形態を老齢マウスでも調べるために,上記と同様の実験を2年齢の老齢マウスでも実施した.さらに,核の形態変化の原因の一つとして核の剛性の変化をと考え,原子間力顕微鏡を用いて,若齢マウスあるいは老齢マウスから抽出したニューロンの核のかたさを測定した.結果及び考察タイムラプスイメージングの実験により,2ヶ月齡の若齢マウスでは光照射後10分程度で核が徐々にへこんでいくことがわかった.次に同様の実験を2年齢以上の老齢マウスを用いて実施した.その結果,老齢マウスではそもそも刺激を行う前からへこんだ核が多いこと,そして光照射を行なっても核の形態がほとんど変化しないことが明らかとなった.この結果から,ニューロンでも加齢に伴って核がいびつな形となり,さらに形態変化がしにくくなることが明らかとなった.
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