で広く高発現する分子であることも分かり,現在,in vivoでのがん移植モデルにおける抗体X単独あるいはSIRPα抗体との併用効果を検討中である.良好な抗腫瘍効果が得られれば,臨床開発へ進めていく予定である.【3】免疫細胞ヒト化マウスを用いたCD47-SIRPα系による腫瘍免疫制御の検討ヒトサイトカイン発現免疫不全マウス(MITRGマウス)に臍帯血由来ヒト造血幹細胞移植した免疫細胞ヒト化マウスを用いた実験系を確立でき,実際に,ヒトがん細胞株を移植してヒト抗SIRPα抗体の効果を確認すると共に,患者由来のリンパ腫細胞を移植した系を確立できた2).さらに,ヒト抗SIRPα抗体をはじめ様々な免疫チェックポイント阻害剤の薬効を治療前に確認できる評価系の確立を目指す.【4】抗SIRPα/β抗体による新規の腫瘍抑制作用とその分子機序の解明SIRPα非発現の膀胱がんや乳がん細胞でも,抗SIRPα抗体の単独投与がMΦの作用を介して腫瘍の細胞死を誘導し腫瘍抑制効果を示すことを見出すことができ,この抗腫瘍効果が,抗SIRPα抗体が認識・結合する膜型分子SIRPβを介した抗腫瘍効果であることを明らかにでき,その作用機序についても解明できた3).さらに,SIRPβ特異的抗体を作製し,その抗腫瘍効果と作用機序につき検討を行うと共に,SIRPβの細胞外領域のリガンド分子を同定するよう試みつつある.また,SIRPβを介する抗腫瘍作用へのT細胞系の関与について明らかにし,SIRPβを標的とした新たな抗腫瘍剤の開発へとつなげる予定である.一方,抗SIRPα/β抗体が,SIRPα発現がんであるヒトランゲルハンス組織球症のモデルマウスにおいて,単独で抗腫瘍効果を惹起することを見出した4).さらにこの抗腫瘍効果には,少なくとも1)がん細胞に対するマクロファージのADCPの誘導(がん細胞の抗SIRPα/β抗体によるオプソニン化を介して),2)マクロファージのADCP活性の増強(CD47-SIRPα系の抗SIRPα/β抗体による阻害を介して),の2つの作用が関与することが明らかとなった.おわりに今後とも,私共が独自に見出しているがん細胞によるCD47-SIRPα系やその関連分子を介した自然免疫系ならびに免疫システム全体の制御機序をさらに明らかにすることにより,がん細胞による腫瘍免疫制御機構をより深く理解しようと試みます.また,本研究の成果は,がん細胞の新たな生物学的特性の解明に繋がること,加えて,がんの革新的な治療法の開発に貢献すると考えております.謝 辞本稿を終えるにあたり,本研究をご支援いただきました公益財団法人 中外創薬科学財団に深く感謝申し上げます.引用文献 1. Komori S, Saito Y, Nishimura T, Respatika D, Endoh H, Yoshida H, Sugihara R, Iida-Norita R, Afroj T, Takai T, Oduori OS, Nitta E, Kotani T, Murata Y, Kaneko Y, Nitta R, Ohnishi H, Matozaki T: CD47 promotes peripheral T cell survival by preventing dendritic cell-mediated T cell necroptosis. Proc. Natl. ― 215 ―
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