【3】免疫細胞ヒト化マウスを用いたCD47-SIRPα系による腫瘍免疫制御の検討がん細胞に直接作用する従来の抗がん剤とは異なり,ヒト免疫細胞を標的とする免疫チェックポイント阻害剤の抗腫瘍効果や作用機序をマウスモデルで検討するのは限界がある.そこで,ヒトサイトカイン発現免疫不全マウス(MITRGマウス)に臍帯血由来ヒト造血幹細胞移植した免疫細胞ヒト化マウスを用いた実験系を用い,移植したRaji細胞などの腫瘍に対して,浸潤するヒトCD68+MΦを始めとする免疫細胞の動態解析,さらにRaji細胞に対するリツキシマブの抗腫瘍効果へのヒト抗SIRPα抗体の効果の検討を行う.またヒト化MITRGマウスを,非臨床におけるヒト抗SIRPα抗体や特殊環状ペプチドなどMΦやDCを直接の標的とする薬剤開発にも利用すると共に,ヒト化MISTRGマウスに患者由来のがん細胞を移植し,ヒト抗SIRPα抗体をはじめ様々な免疫チェックポイント阻害剤の薬効を治療前に確認できる評価系の確立を目指す.【4】抗SIRPα/β抗体による新規の腫瘍抑制作用とその分子機序の解明申請者は,SIRPα非発現の膀胱がん細胞や乳がん細胞でも,抗SIRPα抗体の単独投与が顕著な腫瘍抑制効果を示すことを見出しているが,その詳細な作用機序が不明であり,これを解明する.特に,この抗腫瘍効果には,抗SIRPα抗体が認識・結合する膜型分子SIRPβが関与することを明らかにしつつあり,SIRPβを介した全く新たな腫瘍免疫制御とその作用機序の解明を行う.まず,この抗SIRPα/β抗体による細胞死誘導の分子機序につき,抗体がMΦとがん細胞の両方へ与える効果を遺伝子発現解析などにより詳細に検討する.さらに,抗SIRPα/β抗体によるSIRPβの活性制御機序を明らかにする目的で,SIRPβ特異的抗体を用いた検討を行うと共に,SIRPβの細胞外領域のリガンド分子が不明であるのでこれ同定するよう試みる.また,SIRPβを介する抗腫瘍作用へのT細胞系の関与について明らかにする.結果及び考察【1】CD47-SIRPα系による腫瘍免疫制御におけるDCならびにNK細胞の役割の解明CD47-SIRPα系による腫瘍免疫制御におけるDCの重要性につき検討を行った.T細胞特異的にCD47を欠損させたマウスでは,2次リンパ組織や血中のT細胞が著減することを見出し,この要因として,CD11c+CD4+DC(cDC2)の著しい活性化とそれに起因するCD47欠損T細胞の細胞死(necroptosis)が誘導されることを明らかにした.すなわち,正常T細胞上のCD47は,cDC2のSIRPαと相互作用することによりcDC2の活性化を抑制しT細胞の生存は維持されるが,他方,何らかの要因でCD47の発現が損なわれたT細胞では,CD47-SIRPα相互作用の喪失に起因したcDC2の過度な活性化によりT細胞の細胞死が誘導され排除される機序の存在が強く示唆された1).さらに,最近,CD47を遺伝子的に欠損させたがん細胞では,腫瘍形成が著しく抑制されることも見出しており,その分子機序を詳しく解明することにより新規のがん治療法の創出が期待される.【2】CD47-SIRPα系によるがん細胞の貪食制御の分子機序の解明抗SIRPα抗体を用いてCD47-SIRPα系を阻害した際に,腫瘍細胞上の分子に結合して(オプソニン化)MΦによる細胞貪食を強力に増強する併用抗体を見出すためのアッセイ系を独自に設定した結果,有望な抗体Xを得ることができた.この抗体Xが認識する分子を同定したところ,がん細胞― 214 ―
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