以上より本研究では,MMSET阻害剤の開発を進めた.なお,阻害剤の探索には,低分子化合物ライブラリーを用いたエピジェネティク創薬の大規模スクリーニングと阻害剤開発の実績とシーズを有する理化学研究所(理研)梅原博士8,9)らの協力を得た.実験方法1. 理研から提供を受けるMMSET阻害剤ヒット化合物について,t(4;14)転座陽性骨髄腫細胞に対する増殖抑制効果を検証する.50%酵素活性阻害濃度(IC50) < 1μMのヒット化合物について,H3-K36メチル化特異的な抑制効果,下流にあるIRF4,SLAMF7,cyclin D2遺伝子発現低下作用をイムノブロットと定量PCRにより確認,薬効がMMSET阻害を介していることを検証する.2. データを理研にフィードバックし,より高い阻害活性と特異性を有する化合物創出の基とする.3. 申請者らが樹立済みの以下の2種類のマウス骨髄腫モデルを用いてin vivoにおける薬効と安全性の検証を行う10,11).① luciferase 遺伝子を導入したt(4;14)陽性骨髄腫細胞株を免疫不全マウス皮下に移植する異種移植モデル② luciferase 遺伝子を導入したt(4;14)陽性骨髄腫細胞株を免疫不全マウス尾静脈より移植,骨髄腫患者同様,骨髄内で増殖する異種移植モデルいずれも撮影装置IVISを用いて,マウス体内での骨髄腫細胞の動態や腫瘍細胞量を生きたまま経時的に観察することが可能となる.4.上記1~3を繰り返し,殖抑制効果と有意な生存期間延長効果を示す,毒性のない優れた化合物を探索する.5. MMSET阻害剤による抗腫瘍効果のメカニズムを解明する.発現が変動する遺伝子をマイクロアレイや,H3K36me2あるいはMMSETに対する抗体を用いたChIPシークエンスにより網羅的に解析する.この結果から,エフェクター分子を同定,それぞれの分子の人為的強発現が,MMSET阻害剤の効果に与える影響を観察して標的分子を同定する.6. MMSET阻害剤と既存の抗骨髄腫薬とくにkey drugであるプロテアソーム阻害剤や免疫調節薬との併用効果について,in vitroにおいてisobologram法を用いて解析する.続いて,最も高い併用効果の得られた組み合わせについてマウスモデルを用いてその効果を検証する12,13).結果及び考察共同研究機関である理研において,MMSETメチル化酵素活性ドメイン・精製ヌクレオソーム・抗ヒストンH3K36me2抗体を用いたALPHA(Amplified Luminescence Proximity Homogenous Assay)スクリーニングシステムを構築した.このアッセイ系を用いて低分子化合物ライブラリー(東京大学創薬機構コアライブラリー,理研NPDepoライブラリー,理研創薬医療技術プログラムFBDDライブラリー等)を対象にハイスループットスクリーニングを行った.その結果,MMSETに対するIC50がナノモルオーダーで阻害活性を示し,構造が類似するヒストンメチル化酵素G9aとSET7/9の活性を阻害せず,ユニークな構造を有する化合物としてRK-①in vitroにおいてt(4;14)転座陽性骨髄腫細胞株特異的に増殖抑制効果を示し,② t(4;14)転座陽性骨髄腫細胞株を移植したマウス・モデルへの経口あるいは腹腔内投与により増― 202 ―
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