損させることでALK阻害薬の1つであるアレクチニブへの耐性が生じやすくなり,約1ヶ月後には腫瘍の再増大がMIG6欠損腫瘍で起こっていたのに対し,抗EGFR抗体薬パニツムマブを同時に投与することで高い治療効果を発揮・持続し,耐性腫瘍の出現を遅らせられることが確認された.なお,コントロール腫瘍では,1か月の時点では腫瘍の再増大は確認されていなかったものの,わずかな残存腫瘍らしきものはマウス皮下の移植部分に認められた.さらに臨床検体を解析した結果,ALK阻害薬に耐性となった後に採取された検体では,ALK阻害薬未治療時の検体と比較してMIG6の発現が低下している症例も存在することも判明した.つまり,一部の症例ではあるものの,MIG6の発現低下が薬剤耐性腫瘍の出現までの間の腫瘍残存細胞の生存を促進している可能性が示唆された.さらに,ALKと相同性の高いチロシンキナーゼであるROS1の融合遺伝子陽性肺がんについても,MIG6欠損がROS1阻害薬抵抗性を誘導しうるのではないかと予想し,ROS1陽性肺がん患者さんより樹立した細胞株でも同様の検討を行った.その結果,MIG6を欠損させることでROS1阻害薬抵抗性を生じ,残存腫瘍細胞の増加を認めた.さらに,in vitroおよびin vivoの両方でパニツムマブとROS1阻害薬の併用療法が有効であることが確認さた.また,MIG6の発現が元々低いROS1陽性肺がん細胞株では,低濃度のEGFによる刺激でも治療抵抗性を生じやすい傾向が見られたものの,MIG6を過剰発現させることで,治療残存細胞が減少し耐性が生じにくくなることが明らかとなった.本研究から,ALK,およびROS1融合遺伝子陽性肺がんにおいて,MIG6の欠損がEGFRシグナルを低濃度のEGFRリガンドによって活性化させ,ALK,ROS1阻害薬抵抗性に関与する可能性しめされた.さらに,抗EGFR抗体薬を併用することで治療残存細胞の生存シグナルが遮断され,耐性出現を抑制できる可能性について示唆された1).(2)がん免疫記憶モデルマウスの確立と転移性大腸がんのレパトア解析免疫チェックポイント阻害剤(ICI)は,多くの種類のがんに対して優れた臨床効果を示し,全生存期間を有意に延長するため,幅広く臨床応用されるようになってきた.しかし,長期間の奏効が認められる患者もいれば,ICI治療に全く反応しない患者もおり,より効果的なICI治療を開発するためには,腫瘍に対する宿主免疫応答の理解を深化させ,バイオマーカーの同定・開発が必要である.この研究では,抗PD-L1抗体を用いたICI治療により誘導可能なマウス結腸癌MC38の免疫記憶マウスモデルを確立し,T細胞受容体(TCR)レパートリーを含む免疫微小環境の詳細な特性を評価した.また,ネオアジュバント治療の様に抗PD-L1抗体治療後に残存した腫瘍を外科的切除することで,約半数でメモリーマウスの確立に成功した(図3).― 195 ―
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