中外創薬 助成研究報告書2023
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残存腫瘍を回収し,次の(3)以降に示す解析を行う.(3) In vitroで高濃度(薬剤のヒトでの平均最高血中濃度の約2倍程度まで)で薬剤を1週間~2週間処理し,残存してくる細胞の性状をウエスタンブロッティングやフローサイトメトリー解析などにより各種マーカー分子の発現・活性化(リン酸化)などを調べる.たとえば,EML4-ALK陽性肺がんのゼノグラフトモデルにおいて,分子標的薬による腫瘍縮小が得られて3週間程度持続治療していた残存腫瘍においてがん細胞側がEMT(上皮間葉転換)を起こした際に発現上昇する受容体AXLの重要性を見つけていた一方で,AxlリガンドであるGas6はがん細胞より産生されていなかったため,Gas6を産生する宿主の細胞集団を解析するなどの検討を進める.(4) エピジェネティックな可塑性のある遺伝子発現変化ががん細胞およびホストの細胞に生じ,かつ特定の細胞集団が残存腫瘍内に集積することが考えられることから,残存腫瘍の単一細胞発現解析等を実施する.(本検討は未発表データを含むため詳細は割愛する)(5) 上記の(3), (4)の検討をマウスシンジェニックモデル(EGFR活性化変異モデル等)ならびに,ヒト臨床検体を移植したゼノグラフトモデルを用いて同様に実施する.(本検討は未発表データを含むため詳細は割愛する)(6) ゲノムワイドのCrisprライブラリー(Cas9によるノックアウト)を腫瘍細胞に導入し,治療残存腫瘍に含まれるsgRNA配列を読むことで,治療残存腫瘍に関わる分子を同定.(7) 上記の検討により見出した残存腫瘍においてどのような細胞集団が存在し,どのようにがん薬物療法から逃れているかを明らかにし,新たな治療戦略の標的となりうる分子や経路,さらには免疫細胞による残存腫瘍の除去が可能かどうかについても検討する.そして,新たな治療法(併用療法などの複合療法)を探索し検証する.結果及び考察ここでは,未発表のデータに関しては割愛させていただき,原著論文として発表済みの成果を中心に記載させていただく.(1)Crisprスクリーニングを用いた治療残存腫瘍の生存に重要な因子の同定ALK融合遺伝子陽性肺がん患者より樹立したがん細胞株の1つであるJFCR-028-3細胞は,ALK阻害薬に高い感受性を示す.このALK陽性肺がんにおけるALK阻害薬治療後の残存腫瘍がどのようにALK阻害薬抵抗性を獲得しうるかのメカニズムを新たに探索するため,レンチウイルスベクターを用いてCas9を安定的に発現する細胞株を樹立した.その後,ゲノム上の全遺伝子を欠損させる網羅的ガイドRNA(sgRNA)ライブラリを導入し,ALK阻害薬を9日間処理した後の残存腫瘍細胞からゲノムDNAを抽出し,sgRNAを次世代シーケンサで解析した(図1).ALK阻害薬を処理していない細胞が保持していたsgRNAと比較してALK阻害薬の処理によって濃縮されたsgRNAの標的遺伝子を探索したところ,既知のがん抑制遺伝子であるNF2やMED12に加えて,新たにERRFI1遺伝子を同定した.ERRFI1がコードするのはMIG6と呼ばれるタンパク質であり,これまでに報告された機能としては,EGFRの細胞内領域,特に基質結合領域に結合しその活性を負に制御することが知られている.そこで,まずMIG6に着目して研究を行った.― 193 ―

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