中外創薬 助成研究報告書2023
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析し,その分子基盤に基づく新たな治療法発見を目指した.特に本研究では,ドライバーがん遺伝子陽性の肺がんを中心に,分子標的薬残存腫瘍のがん微小環境の理解と新規治療法の開発を目標とした.実験方法本研究では,以下の点を中心に後述する材料・手法を用いて研究を行い,下記の各項目を明らかにすることとした.なお,本報告書執筆時点において未発表な部分に関する方法の記載は一部省略させていただいている.<A>がんの薬剤抵抗性機構の理解と薬剤耐性細胞の芽となる治療残存細胞の性状解明<B>治療残存腫瘍中の宿主間質細胞や免疫細胞の種類の同定とその役割を解析<C> がん細胞を認識できる免疫細胞が治療残存腫瘍や転移巣にどの程度存在しているかの解明と,免疫細胞による抗腫瘍効果を引き出すための新規がん複合療法の探索これらの解析を通じ,耐性を生じにくくさせ,ひいては完治を目指せるような複合治療戦略の開発につなげることを目指した.[使用する主な材料:細胞・マウスモデル等]1.治療前,および薬剤耐性患者からの組織(胸水,腹水,生検等)とその細胞株,ゼノグラフトモデル2.EGFR活性化変異を有する同系マウスゼノグラフトモデル3. 免疫環境を解析するSyngeneicマウスモデルとして,マウス大腸がん細胞MC38を移植したC57BL/6マウス4. 原発巣および転移巣の切除検体(新鮮検体とその培養)を解析するために転移巣があっても積極的に切除していく大腸がん検体を使用[研究遂行の方法](1) 上記1に記載の対象とする肺がん細胞株で不足するものを収集し,患者由来培養細胞株やゼノグラフトモデルの作製を行った.特に分子標的薬耐性症例からの臨床検体(検査や治療の残余分)をIRB承認済みプロトコールに従って収集し培養株化と,下記(a)-(d)のようにして遺伝子変異,エピゲノム変化,細胞レベルでの耐性機構と感受性を示す薬剤の探索をする. (a) ドライバーがん遺伝子および,がん関連遺伝子の変異解析,CNV解析,RNA-seq解析等による融合遺伝子の解析 (b) 細胞株化に成功した時点で,(a)の解析結果に応じて薬剤感受性実験を実施.(a)によりその抵抗性機構の推定ができない場合には,約400の標的既知阻害薬ライブラリ等で処理し,各薬剤のOn target,Off Target標的分子の情報とその際の発現変動遺伝子等から抵抗性機構を推定.  (c) 抵抗性のメカニズムが解明できたものについては,遺伝子のノックアウト等を含めて耐性機構の検証を実施.また,併用薬による耐性克服法も探索する. (d) 上記の解析でもなお薬剤抵抗性が不明な症例については,共同研究でリン酸化プロテオーム解析を実施するなど,網羅的な発現解析等を行う.また,必要に応じて,CRISPRノックアウトスクリーニング等を実施.(2) 上記(1)で作成した患者由来培養細胞を用い,in vitro, in vivoで治療実験を実施し,その際の治療― 192 ―

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