アポトーシスとの関連性を検討するために,アポトーシスマーカーであるAnnexinV陽性細胞の検出を検討した.ARID1A正常型細胞株において,Xを抑制しても,AnnexinV陽性細胞の割合に変化は認められなかった.しかし,ARID1A欠損型細胞株において,Xを抑制すると,AnnexinV陽性細胞の割合が増加することから,アポトーシスが誘導されると考えられた.(3)合成致死性のメカニズムの解析脱ユビキチン化酵素は,ユビキチン化されたタンパク質のユビキチン化を取り除くことによって,ユビキチンプロテアソーム系によるタンパク質分解を抑制している.そこで,ユビキチン化タンパク質の抗体アレイ解析によって,脱ユビキチン化酵素Xを抑制したときに,ユビキチン化が亢進されるタンパク質を探索した.その結果,Xの標的として,複数の候補タンパク質を同定した.さらに,ウエスタンブロッティング法を用いて,Xを抑制したときに,分解が促進されるタンパク質を検証した結果,2つの増殖因子を同定した.これらの増殖因子は,下流の増殖シグナル経路を制御している.そこで,下流の増殖シグナル経路を特定するために,リン酸化タンパク質抗体アレイを用いて,ARID1A欠損型細胞株において,リン酸化シグナルが亢進しているタンパク質を探索した.その結果,複数のリン酸化タンパク質を同定した.さらに,ウエスタンブロッティング法を用いて,Xを抑制した時にリン酸化が減弱するタンパク質を検証した結果,STAT3のリン酸化が減弱することが分かった.これらの結果から,以下のメカニズムが考えられた.ARID1A欠損型細胞株において,Xを抑制すると,Xの脱ユビキチン化標的因子である増殖因子の分解が起こる.このとき,増殖因子の抑制によって,下流のリン酸化シグナル経路としてSTAT3経路が抑制されることで,アポトーシスが誘導されることが考えられた.おわりに本研究では,ARID1A欠損型卵巣明細胞がんを対象としたX阻害剤を用いた治療法を提唱した.今後は,製薬会社とX阻害剤の創薬開発を進めることで,臨床応用を目指したい.また,ARID1A欠損がんは,卵巣明細胞がんだけでなく,特に難治性のスキルス胃がんを含めた胃がんにおいても25%ほどの欠損型遺伝子異常が認められる.したがって,X阻害剤は,ARID1A欠損型の胃がんへの適用拡大の可能性も期待できる.さらには,ARID1AはSWI/SNFクロマチンリモデリング複合体の構成因子である.SWI/SNFクロマチンリモデリング複合体の構成遺伝子の中で,ARID1A以外の構成遺伝子として,SMARCA4,PBRM1,SMARCB1なども様々な難治性がんで欠損型遺伝子異常を認める.これらの遺伝子異常は,ARID1Aの遺伝子異常と類似して,SWI/SNF複合体が機能欠損している考えられる.したがって,X阻害剤は,ARID1A以外のSWI/SNF複合体遺伝子異常がんにも適用拡大の可能性が期待できる.謝 辞本研究は,公益財団法人 中外創薬科学財団 特別助成金等を元に進めてきた研究である.中外創薬科学財団の関係者の皆様に厚く御礼申し上げます.― 188 ―
元のページ ../index.html#190