子集団について,この遺伝子集団を制御する上流因子を明らかにするため,エンリッチメント解析により上流因子となり得る転写因子の探索を行った.3)プライマリー肝星細胞を用いた候補因子の検証エンリッチメント解析により抽出された候補転写因子について,肝がんモデルマウスの肝組織から単離したプライマリー肝星細胞でのノックダウンを行い,SASP因子の発現に対する影響を解析した.結果及び考察1)肝星細胞における擬似時間解析正常肝および肝がん組織非腫瘍部,腫瘍部領域からそれぞれ単離した肝星細胞に対して,シングルセルRNA-seq解析の結果を基に擬似時間解析を実施したところ,図2の様な経路が描かれ,正常肝から肝がん非腫瘍,腫瘍部へと連続的に肝星細胞の性質が変化していくことが捉えられた.また興味深いことに,腫瘍部領域ではこの経路が2つに分岐していることが確認された.そこで,この2つの経路における発現遺伝子を確認したところ,経路①においてのみ,細胞老化のマーカー因子やSASP因子が高発現していくことが確認され,この経路①が,肝星細胞がCAFへと進む経路である可能性が示された.図2. 擬似時間解析による肝星細胞の性質変化の解析 肥満誘導性肝がんにおいて肝星細胞は正常肝から肝がん腫瘍部方向に連続的に変化するが,最終的に2つの異なる経路に分岐する.2)CAF化制御因子の探索上記の解析から肝星細胞がCAFへと至る経路として見出した経路①の特徴について捉えるため,この経路に沿って発現が変動する遺伝子を確認したところ,細胞老化のマーカー遺伝子を含む140遺伝子が経路に沿って発現が上昇していることが確認された.さらにこの遺伝子集団を制御する上流因子を明らかにするため,遺伝子集団の発現を制御する転写因子の抽出を試みた.そこで,遺伝子集団について,転写因子とその標的ゲノムDNAとの相互作用を解析するクロマチン免疫沈降 (ChIP)のデータベースに対して,エンリッチメント解析により照合を行った.その結果,38の転写因子が経路①に沿って増加する遺伝子集団を制御する候補因子として抽出された(図3).興味深いことに,― 179 ―
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