中外創薬 助成研究報告書2023
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― 178 ―はじめにこれまで肝がんの半数以上を占めてきたウイルス性肝がんは,有用なウイルス薬の開発により減少傾向となっている.一方で,現在,肥満や糖尿病を背景とする肥満誘導性肝がんは増加の一途を辿っており,その発症メカニズムの解明や治療標的の同定は喫緊の課題となっている.これまでに我々は高脂肪食給餌による肥満誘導性肝がんモデルを確立し,①肥満により増加したグラム陽性菌が産生する二次胆汁酸デオキシコール酸(DCA)が,腸肝循環を介して肝臓に達し,肝星細胞の細胞老化を誘導すること,②細胞老化を起こした肝星細胞が細胞老化随伴分泌現象(senescence-associated secretory phenotype, SASP)をおこし,様々なサイトカインやプロテアーゼを分泌することで肝がん促進的な微小環境を形成することを報告している1, 2).また最近になり,申請者らはこれまで未解明であったSASP因子の細胞外放出機構に着目し,SASP因子のIL-1βやIL-33が,パイロトーシスの実行因子として知られるGSDMDを介して細胞外へと放出されることで,抗腫瘍免疫能を抑制し,肝がん形成を促進されることを明らかにした3).この様に,肝がん微小環境において肝星細胞が,CAF(Cancer-associated fibroblast)として機能することで肝がん形成を促進させている.しかしながら,肝星細胞が腫瘍形成の過程でどの様に性質を変化させCAFへと至るか,また肝星細胞より放出されたSASP因子がどの細胞に作用することで腫瘍形成を促進させるかといった肝星細胞を中心とする肝がん微小環境の全体像は明らかになっていなかった.そこで本研究では,肝星細胞に対するシングルセルRNA-seq解析の結果を用いて,擬時間解析を行い,肝星細胞のCAF化に至る性質変化を引き起こす制御因子の探索を行った.実験方法1)肝星細胞における擬似時間解析申請者らはこれまで,高度な脂肪肝組織から高純度の肝星細胞を調整する単離法を確立している4).そこで,肥満誘導性肝がんモデルの肝がん組織非腫瘍部,腫瘍部領域から肝星細胞を単離し,シングルセルRNA-seq解析を実施した.この際,通常食を給餌したコントロールマウスから正常肝組織由来も肝星細胞を単離し,同様にシングルセルRNA-seq解析を実施した.さらにシングルセルRNA-seq解析の結果を用い,遺伝子発現の類似性に基づいて細胞を連続的に並べることで細胞の連続的な性質変化を知ることができる擬時間解析を行い(図1),肝星細胞の性質変化を解析した.図1. 擬時間解析:細胞の性質変化の程度の違いを基に,擬時間軸を定義しそれに沿った連続的な性質変化を解析する.2)CAF化制御因子の探索擬時間解析により定義された肝星細胞の性質変化における擬時間軸に沿って連続的に変動する遺伝

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